2011-07-30

全国高等学校情報教育研究会

 8月5日(金)~6日(土)に大阪経済大学で開催される全国高等学校情報教育研究会に,横浜清陵総合高校の五十嵐先生と連名でポスターセッションの発表を行うので,その打ち合わせを行った。


 今回は,東京大学三宅なほみ先生の事例
【Miyake, N., & Shirouzu, H. (2005, June). Design and use of smart tasks in collaborative classrooms. Poster session presented at the meeting of the Computer Supported Collaborative Learning, Taipei, Taiwan.】
を参考に私が昨年11月の授業で実践し,さらに五十嵐先生がリファインして実践された教材「データのばらつきを調べる~グループ研究の成果/教材の実践と検証~」を,全国大会でポスターセッションにミニワークショップを交えた形で発表する。

 情報教育の実践事例発表なのだが,次のような小道具を携えて参加する。
(1) 船の出航式などで使う五色の紙テープ
(2) はさみ
(3) のり
(4) 紙に印刷した定規
(5) はがき
(6) 授業の手順説明書
(7) 記録用紙(ワークシート)
 さて,ミニワークショップでは参加される先生方からどのような反応が得られるだろうか?

大成丸横浜入港

 大成丸の横浜入港を迎えて写真を撮影した。横浜市港湾局のwebページで入港予定の岸壁とアプローチ開始時刻・着岸時刻、着岸舷を調べておいたので、早めに岸壁で待っていた。

 本船が姿をあらわした頃にはカメラの敵の雨もあがって一安心、撮影に専念できた。周囲には実習生の家族とおぼしき人たちがチラホラ見えて、熱心に写真を撮影していた。

 私が持参したカメラはNIKON-D300+300mmF4とRICOH-GR3(20ミリ相当)の2台。ズームレンズが欲しくなるけれどここは我慢する!デジタル1眼につけて標準相当の35ミリレンズも持っているが、さすがにカメラ3台で撮影するには雨降りの中、体ひとつでは間に合わない。望遠と広角という極端な組み合わせで頑張った。単焦点レンズが好きでこうしてきたわけだからこのスタイルを維持しよう。

 本船が入港する様子を陸から眺めるのは初めてのことだった。遠景に船が姿を見せたときには、船齢30年とは思えないほど美しく整備された船装いに胸を打たれた。「船を守る」という船乗りの基本を継承し続けるには、華々しい表舞台からは想像のつかない努力と苦労があったことだろう。社会人32年目となる私とほぼ同じ歳月を歩んだ本船には特別な愛着がある。長い年月にわたって大成丸を維持し続けてこられた諸氏に敬意を表したい。





ブリッジの左舷ウイングにキャプテン(制服)とパイロット(帽子)の姿が見える







本船入港後の喫水を三等航海士が計測するためJacob's Ladder(縄梯子)が用意されている。


2011-07-28

ジャズ幽霊さん

 六本木のサントリーホール25周年企画「やってみなはれ」の一環で本日一日限り上演される黒鯛プロデュースの『ジャズ幽霊さん』を観に行った。
 黒鯛プロデュースの芝居は,前々作の『異議ある夫婦』以外はすべて観ている。つまり,ジャズドラマーの市原康さんが出演している作品については皆勤賞ということになる。
 笑わせて,ちょっとホロッとさせる芝居だ。これまでの作品は,親子の情愛,人生の禍福などが主なテーマだったが,今回もその路線。
 現在活躍されているジャズピアニストの前田憲男さんが劇中でオスカーピーターソン風やビルエバンス風,チックコリア風,セロニアスモンク風・・・にピアノを演奏していたが,芝居が終わったカーテンコールのそのあとで,アンコールに応えて『My Blue Heaven』を演奏して,芝居とジャズと両方を楽しめた。




ジャズドラマーの市原康さんと


情報部会研究会(2011年度第1回)

 横浜清陵総合高校で情報部会の今年度第1回研究会に出席した。
1 横浜清陵総合高校で実施している学校設定科目「コミニュケーション」の紹介(五十嵐先生)
(1)科目の説明
 本日のワークショップで行う事例の他にさまざまな演習を積み上げたあと、インタビュー実習を行い校内発表につなげる。
 インタビュー実習では実社会で活動している社会人や組織にインタビューを行うための依頼、事前調査などすべてを生徒自身で行う。
 校内発表によって、互いの成果と課題を共有する。
(2)ワークショップ「バンガロー殺人事件」
 6人1組になって全員が刑事役となり、それぞれが報告した捜索情報を整理し、事件の真犯人を割り出す。

《感想》このワークでは全員に役割が与えられる。それぞれが自分の持っている情報を出し合って、論理的に情報を整理することで問題解決に至ることができる。グループワークが苦手で発言しにくい人にとっても,自分の情報を提供しなければグループでの課題を解けないので,参加して発言せざるを得ない仕組みになっている。リーダーシップをとる人,情報を整理する人などの役割分担が自然にできると問題解決が円滑に進む。





(3)ワークショップ「背中合わせ・向かい合わせ」
 背中合わせに座って、紙片に描いてある図形を言葉だけで一方が他方に伝えて図形を再現する。
 次に向かい合わせに座って同じように図形を伝えるが、今度は他方が再現している図形の誤りを見て説明をやりなおすことができる。向かい合わせのほうが,伝える相手の作図の様子を確認できるので正解しやすい。


《感想》情報の非対称性:つまり,自分が伝えたいと思っていることが必ずしもそのとおりに相手には伝わっていないという当たり前のことをこのワークを通してよく理解できる。例えば,電話で道順を尋ねるときなど,お互いに質問しあって良い場面でも,言葉だけでは説明しきれない場合がある。人は,言葉以外にも身振り,手振り,目つきなどあらゆる所作を駆使してコミュニケーションを図っているという事がよくわかった。

 午後は次のプログラムだったが,所要のため中座した。 

2 ディベートを体験しよう(諏訪間先生)
3 授業実践事例報告
 (1)スクークを活用した違いのわかるライントレース(谷川先生)
 (2)プログラミング教育の入門として「アルゴロジック」の紹介(五十嵐先生)
 (3)マルチメディア表現より「雑誌そっくりのパンフレットを作る」(石井先生)
 (4)相模原公陽高校のいま(保福先生)

2011-07-23

飾り毛布実演(羊蹄丸)

 大成丸を見送ったあと,飾り毛布(花毛布)の実演を見に船の科学館羊蹄丸へ行った。本年9月末で船の科学館は休館となり,羊蹄丸の保存・展示が終了するということなので名残惜しい。残り少ない機会だからなるべく見に行こうと思う。

松竹梅

水芭蕉

マンタ


大成丸を見送る

 東京晴海埠頭から練習船大成丸が東京海洋大学海洋工学部の1年生を乗船させて1ヶ月の内地航海に出航した。30余年前に新卒で乗船したのが先代の大成丸(日本郵船小樽丸改装)で,その船に1年半乗船し,1981年3月にこの大成丸が竣工したときに転船して1年間乗船した。その頃は三席または次席の三等機関士だった。その5年後に再び乗船したときは次席二等機関士で主ボイラ担当だった。

主要目旧大成丸現在の大成丸
総トン数24555886
全長(m)95.19124.84
幅(m)12.217.0
深さ(m)6.4210.50
機関タービン1基タービン1基
出力(kW)12505148

左が旧大成丸,右が現在の大成丸(1981年3月撮影)







1号ボイラの強圧送風機を高速に切り替えたため,右側の煙突からわずかに煙が上がっている。


2011-07-21

三級海技士国家試験合格発表

 7月11日と12日に行われた三級海技士(機関)学科試験の合格発表があった。担任として受け持っている専攻科2年生6名が受験し,2名合格,2名が2科目合格,2名が1科目合格だった。本校は内燃機関三級海技士(機関)の第一種養成施設なのだが,生徒は扱える機関を限定されない「三級海技士(機関)」の取得を目指して蒸気タービンやガスタービンの勉強もしている。その成果が実ったのでとても喜ばしい。来年3月の口述試験に合格すれば免許を取得できる。
 5月初旬と6月下旬に模擬試験を行って試験に備えてきたが,彼らはよく勉強した。10月定期に残りの科目を頑張って全員が合格して欲しい。

2011-07-18

ヒレ推進コンテスト公開講座(第5回)

 今年もヒレ推進コンテストが8月27日(土)に横浜国立大学理工学部で開催される。今日はその事前の公開講座で,コンテストに参加を申し込んだ高校生が同学理工学部の船舶工学を専門とする先生方から講義とコンテストのルール説明,そして実験水槽(大学が所有する船舶工学の実験水槽としては世界最大規模,長さ100メートル,幅8メートル)の見学をした。
 【講義内容】
1. 船はどんなふうに浮くの?:村井基彦准教授
 日本の衣食住およびエネルギーの海外依存の状況。
 重量ベースで総輸入量の99.7パーセントを船で,残り0.3パーセントを航空機で輸入。
 その貿易量は世界の8分の1を占めている。
 飛行機は高度1万メートル以上に上昇しなければならず,車や鉄道も起伏のある所を走る。
 それに対して船はほとんど高低差のない平面を移動する。→輸送する質量に対して燃料消費が少ない理由。
 船は速く進む,丈夫である,そして転覆しないことが大前提。
 日本は国土の面積では世界60位だが,排他的経済水域では世界第6位である。さらに,海の体積では世界で第4位。
 「海にある」を使えるようにするのが海洋工学である。
 浮体の安定性・・・海洋空間利用への技術(メガフロート,風力発電など)への応用が可能。


2. 魚はどんなふうに泳ぐの?:和田大志准教授
 海中ロボットの開発状況。
 海底で活躍中の海中ロボット(計測,計測データの送信,自立的な遊泳)。
 全自動の海底近傍広域観測調査船(東京大学生産技術研究所)。
 魚類が高速で泳げる理由(まだわからないことが多い)→グレイのパラドックス。
 スクリュープロペラの推進効率0.7に対して,ヒレは0.8パーセント。
 魚類や鳥類の動きを人工物に応用する研究,形状記憶合金の活用。
 鳥のような飛行をする航空機の開発。
 飛行機の翼素に対する揚力と魚類のヒレによる推進は流体力学的には同じ。

3. 船はどうやったら速く走れるの?:鈴木和夫教授
 船が作る波。
 拡散波。
 ケルビン波。
 大型船,小型高速船,アヒルによるケルビン波の状況。
 海洋動物が水中で遊泳するときの造波。
 イルかは20~30ノットで走る高速船にも負けない速さで走る。
 しかしなぜそのような高速で走れるのかいまだに解明できていない。
 水面近傍,揚力が大きい→水面近傍を飛ぶ水鳥,飛び魚,ホバークラフト,地面効果翼機,水上飛行機。


4. ヒレ推進コンテストのレギュレーション説明
 タミヤ「メカふぐ」のモーター1個使用。
 単3乾電池1個または2個使用。
 水棲生物を模した推進装置とする。
 長さ50cm以下,幅30cm以下。
 等々

5. 実験水槽見学
 長さ100メートル,幅8メートルは大学の実験水槽としては世界最大規模。
 実験用模型の曳航電車は3.5m/s(12.6km/h)での曳航が可能。
 天井レールによる飛行体の着水実験などでは10m/s(36km/h)での曳航が可能。
 波長の短い波を波長の長い波が追い越す様子の実験。
 造波装置による三角波の実演見学。
 海流水槽を利用した船体塗料の違いによる伴流抵抗の実験見学。

 船に乗っていた経験から,興味深かった。高校生には少々難しかったかもしれないが,大学ではこのような講義を聴いて勉強する,研究するという実感が持てる講義内容だった。





2011-07-16

納得研究会(2011年第3回)

【2011年第2回納得研究会】 実は4月9日(土)に第2回納得研究会が開催されて出席していたのだが,大震災の後で気持ちが落ち着かずにブログを更新していなかった。2本の発表題目だけ紹介しておくことにする。
発表1 「国語科デジタル教材の開発を巡って ~ PC活用の意義とそのデザイン再考 ~」
発表2 「科学実践としての理科教育」(1月22日博士論文公聴会の記事とほぼ同内容)

【2011年第3回納得研究会】
 東京国立近代美術館で2011年第3回納得研究会が開催された。本日のテーマは「対話型鑑賞」。動物園でレッサーパンダを担当されているNさんと,美術館の来館者研究をされているHさんが昨秋から暖めてきた企画で、対話型鑑賞の概要については本年第1回納得研究会で発表が行われているので詳細はそちらを参照。
 同業の五十嵐さんのブログにも今回の報告がある。


 この美術館では,許可を取って写真のようなシールを腕に貼ると館内で写真を撮影することができる。ただし,三脚や一脚を使ったり,ストロボを使ったり,あるいは作品だけを大写しに撮影して流用するなどの行為と,「撮影禁止」と明示した作品の撮影はもちろん禁止である。


 対話型鑑賞:VTS(Visual Thinking Strategy)、解説や説明ではなくみなで考え、話しながら作品を鑑賞する。当館で行うワークショップではいろいろなスタイルの鑑賞をしているが、今日は対話型鑑賞を実践していただいた。
 時あたかもクレー展でにぎわっていたが、家のこまごました用事を片付けていたら集合の14時ギリギリになってしまってクレー展を見ることはできなかった。こちらは次の機会にしよう。
 本日の出席者は24名。奇数月生まれと偶数月生まれの2グループに分かれて、美術館のIさん、Kさんのファシリテイトによる対話型鑑賞を体験した。私は偶数月生まれのグループで二つの作品をそれぞれたっぷり1時間近くかけて鑑賞した。

【ひとつ目の作品】
 美術館の外廊下と内側を仕切るガラスを隔てて、ほぼ同一の鋳鉄製人体像2体が向かい合わせに展示されている。この場所に集まって、Iさんが「対話型鑑賞では、鑑賞の口火を切るときに What's going on this picture? などと問いかけます。何が起こっていますか?」
ギャラリー1 この人は外の景色(皇居の方角)を見たいけれど、ガラスに映った自分の姿が邪魔をして見ることができない。
ギャラリー2 双子が偶然この場所でガラスを隔てて出会って互いに見つめあい驚愕している。
ギャラリー3 自分は何とか今の自分を超えたいのだが、超えることのできない自分の姿を見ている。
ギャラリー4 普段は自分のことを実年齢よりも10~15歳くらい若く感じているのだが、電車などのガラスに映る自分の姿と隣に立つ風采の上がらないオジサンの姿が同年代であることに気付いて驚愕している。
ギャラリー5 この人の立ち方は足の親指の付け根に力が入っておらず、足の外側に重心がある。自信にみなぎっているという様子ではない。
ここで外に出て外側の鋳鉄像を「観」る。
ギャラリー6 外の作品は肌が荒れてますね。筋のようなものがついている。
ギャラリー7 長年の風雨にさらされている。
ギャラリー8 これまでの人生で幾度も選択をしてきたが、一度の人生でひとつの道しか選ぶことはできないので、「別の人生もあったのかもしれない」と感慨にふけっている。
ギャラリー9 双子がお互いに見詰め合ってそれぞれの人生の来し方を想っている。

Antony Gormley(1950- ),Reflection(反映/思索),2000年,鋳鉄



【ふたつ目の作品】
 ビル街を空から見る構図の大きな油絵。ビル街の中空にたくさんの花びらが描かれている。
ギャラリー1 風が吹いてきて花びらが街に飛んできた様子。
ギャラリー2 街が荒れている感じがする。窓ガラスが割れているような。
ギャラリー3 花の茎がビルに取って代わられた。昔は花畑だったところがビル街になった。
ギャラリー4 今は都会で人波にもまれて生活しているが、花や緑に囲まれた故郷の夢を見ている。
ギャラリー5 花の動きが感じられない。
ギャラリー6 花の層が同じ高さのようだ。
ギャラリー7 レイヤーのようになっていて一番下に街があり、上の層に花がある。
ギャラリー8 ビルは時代を感じさせる。花は美しい時季が限られていてその美しい瞬間の花だけ描かれている。
ギャラリー9 この絵の真ん中あたりのビルだけ壊れたようにぐしゃぐしゃに描かれている。
ここで美術館のIさん「この絵のキャプションを読んでいただけますか?」
ギャラリー10 大岩オスカール(1965-  ),ガーデニング(マンハッタン),2002年
ギャラリー11 最近(今)描かれた絵ならば、これは2011年3月11日以降今我々が見ている世界だ。
ギャラリー12 花はあの9.11で亡くなったひとつひとつの命をあらわしている。
・・・・

という具合に、Iさんはファシリテータとして我々に発言を促したり、我々の発言に言葉を足して繰り返したりしながら、我々鑑賞者が作品に対して感じたり作品から読み取ったりしたことを振り返り、鑑賞を深めた。



【研究会】
会議室に集まって、二グループの鑑賞を振り返り、質疑応答を行った。

Iさんから(偶数月生まれのグループ)
 対話型鑑賞(VTS)ではなく仕掛けを持って解説する方法もある。今日は徹底してVTSで鑑賞した。美術を見ることを通してクリティカルシンキング、(メディアリテラシー的な)、観たものからどういう風に解釈してもよい。あなたが見たことがすべて。ただし、複数の人の発言と照らしあいながら、ある視点に到達しよう。このような鑑賞を繰り返すことによって、鑑賞力が高くなる。今日は二つ目の作品について途中でキャプションを読んでもらったが、徹底したVTSではキャプションを全く隠して行うこともある。(作品固有の情報が知りたい人もいるが。)

Kさんから(奇数月生まれのグループ)
作品情報をある程度与えて対話したり問いかけたり謎解きをしたりするスタイルで行った。本来はVTSでやってきたが、ガイドスタッフで相手する人たちは一般来館者であり、子供もいる、時間も50分と限られているので折衷してきた。対話を用いながら作品を見る。基本的には作品実物をみながら鑑賞する。観ているだけでは気付かないところに気付いてもらうための取り掛かりとして問いかけ、謎解きなどを発問し、作品に食い入ってみてもらう。お互いの交換までにはいたらなかった。自分の思いを語ってそれを交換し合う時間は取れなかった。

Iさん:人間同士の対話、鑑賞者同士の対話、ファシリテータと鑑賞者との対話を重視する。
S先生:今回はいろいろな人の発言を通して、自分の発言を振り返る、自分自身との対話であっただろう。自己内対話ではないか。
Iさん:VTSではファシリテータ,ナビゲータと呼んでいる。ファシリテータ、中立の立場を維持しながら発言を促してゆく、進行する。発言をすべて受け止める、パラフレーズ、少し別の言葉に置き換えて繰り返したり、それを取り入れて進行する。
SGさん:鑑賞者に情報提供することについて。
Iさん:VTSだと徹底して情報を出さない。キャプションを出さない。芸術作品でない場合もある。化学実験であったりもする。
Kさん:岡山で徹底したVTSをやったことがある。キャプションも見せない。不評な面もあった。作品を見るときに情報を与えない、しかし美術館としては作者作品に対する尊敬があるから最後には作者と作品名は伝えてくださいといわれた。
 来館者が作品情報を望むこともあるので、それに対応するため純粋なVTSにはなっていない。子供だと発言が自由に始まる、議論が行われる。しかし、大人はそれができない。そのために、自分に問いかける内省的な方法になった。
Iさん:アビゲールハンセン、美的発達論、人が鑑賞する能力、5段階ある。
第1段階、物語を語り始める。
第2段階、自分の規範と照らし合わせて判断する(性格でないから変な絵だなど。)
第3段階、美術知識に作品を当てはめる段階。
第4段階、・・・
第5段階、・・・
第1段階の人を第2段階に引き上げるための見せ方がある。
 鑑賞者の発言を絵にポイント付けさせる。「どこを見てそうう思いました?」というように。みんなが見ている同じ作品に、ある人の発言を根拠付ける。そうしないと、絵を見たことによる想像が別の想像を生んで、絵から発想が離れてしまう。
 知識伝達型の解説が、実は役に立っていなかったという追跡調査がある。作品を見たことすら覚えていないこともある。なので、作品を鑑賞して自由に発言、自己内対話してもらうことから始める方法が行われ始めた。いろいろな人の発言が、自分の発想を豊かにする。複数で観ることの大事さ。先入観なしに作品と対峙する。
参加者1:美術鑑賞、自分の感じ方は自由。作品のキャプションに引きづられて知識的理解をするよりもおもしろかった。
参加者2:VTSを行ったときに、いろいろな発言から、その場所においてその場所にいる人の合意に達することが大事だと思ったのだがそれはどうだろう?
Iさん:進行役は意見をまとめてはいけない。ということになっている。
S先生:合意を得る必要はないだろう。触発されてコミュニケーションをとる。人の発言によって触発される、お互いに触発しあう力をつける、そういうコミュニケーションが必要なのではないか。看護教育に多少関わっているが、看護というのは微妙な技なので、ハウツーではない。ベテラン看護士に接して、その振る舞いから触発されることが大切なのであって、ハウツー的伝達をしていては触発しあうことにならない。対話によって触発される、触発することを育てる。言葉の意味をunderstand ではなく、 feeling with であるべきだ。
参加者2:合意ではなく、協働感覚を得るということでしょうか?今日、このメンバーで見たからこのような感覚を得ることができたというような。
参加者3:鑑賞者の水面下では別のことを感じてたりしますよ。他の人の発言に対して「この人はわかってないな」と思ったり。
Iさん:What's going on this picture? 企画展で人は集まるけれど、美術館にとって本当に勝負したいのはコレクションである。実は、鋳造の人体は、一晩であのようになった。それまで雨風はしのげていたのに、ある年の台風のときに雨が吹き込んで。作者に状況を知らせたところ、作者は是非そのままにして置いてくださいといった。その時間の経過による変化こそがコンセプトだからと。

【懇親会】
毎日新聞ビルのPRONTOでほぼ全員参加。今回初参加の人が二人、久しぶりの人が数名いらしたので全員で自己紹介をし、生ハムサラダ、ウインナーソーセージ、トマトとモツァレラチーズ、鶏唐揚、ピザ、スパゲティなど豪勢な料理とビールで大いに盛り上がった。幹事を務めていただいたNさん、ありがとうございました。

【二次会】
 新宿2丁目のLENNON HOUSEというライブハウスに4人で入り、JAZZライブを観ながらビール、ウィスキーロックなどで仕上げ。店内はジョンレノンの写真がたくさん貼ってあるので、店主殿はたぶんジョンレノンとビートルズの熱烈なファンなのだろう。しかし、この日に演奏していたのはジャズ。ドラムとギターとキーボードが二人ずつ入れ替わり、女性のベーシストがひとり(彼女はフレットレスベースを演奏)、アルトサックスひとりでジャムセッションしていた。
 ライブハウスでジャズを聴くのは5ヶ月ぶりくらいなのでとても楽しかった。同行の3方はフォークロック風のバンドを組んでいて、昨秋そのグループのライブに行ったこともある。
 ところで、音楽の鑑賞にジャンルとか音楽形式や曲の由来のような「教科書的」な知識は要るのだろうか?今日の対話型鑑賞の流儀に従えば、「この音楽で何を感じたか?」「どんな情景が思い浮かんだか」のようなことになるのだろうか。音楽も自由なはずだから、たぶんいろいろな薀蓄的知識は無用なのだろうとは思う。
 しかし、俳句のような定型詩的形式のブルースのときは、「Fのブルースをやろう」の一言で合意して演奏が始まり、聴くほうもブルースだと思って安心して聴くことができるし、どこかで聞きかじってきたマイルスデイビスのエピソードをしたり顔で語ればジャズ通のような顔して少しだけ鼻を天狗にすることもできる。
 美術鑑賞をして、ジャズのジャムセッションを聴いて、酒と会話を楽しんで、気付けば終電ギリギリで帰路についた。飲んでいるときについ居眠りしてしまったのだが、そのときの様子を持参していたカメラでこっそり写されていた。同行の皆様、撮影ありがとうございました(大笑)。




2011-07-11

八幡橋

  東京海洋大学越中島キャンパスに行く用事があったので、以前から気になっていた八幡橋(旧:弾正橋)を見に行った。富岡八幡宮の東側にあって、ちょうど江東区立数矢小学校の生徒がこの橋をわたって帰宅するところだった。橋の下は川ではなく、八幡掘遊歩道になっている。
 遊歩道の南端に設置されている「町角みちしるべ」では由来を次のように説明している。
 『旧弾正橋は、明治11年(1878)東京府の依頼により工部省赤羽製作所が製作した国産第1号の鉄橋です。昭和4年(1929)現在地に移され八幡橋と改称し、以来人道橋として活躍してきました。昭和52年(1977)近代橋梁技術史上の価値の高い橋であることから、国の重要文化財に指定されました。また、アメリカ人技師スクワイヤー・ウィップルの特許を基本としたことから、平成元年10月、国内で初めてアメリカ土木学会より「栄誉賞」を受けました。』
 この橋のアーチ部は鋳鉄製で、引張材には錬鉄が使われている。鉄橋と言われるほとんどの橋は鋼(スティール)製で、この橋のように鋳鉄や錬鉄を使用したもので現存するのは明治時代前半に作られたものばかりだそうだ。鉄塔も同様で、エッフェル塔は錬鉄、東京タワーは鋼でできている。現在就航している大型船は鋼製で、日本には現役の鉄船はなく、東京海洋大学に保存されている明治丸は日本最古の鉄船である。
 エッフェル塔が完成したのが1889年、私の祖父が1884年生まれなので、祖父が生まれた頃の構造材は錬鉄が主流であったわけだ。





  銑鉄(せんてつ):鉄鉱石を溶鉱炉で溶かして取り出したもので、2~5%の炭素のほかケイ素、マンガン、リン、硫黄などの不純物を含んでいて脆く割れやすい。
  錬鉄(れんてつ):銑鉄をドロドロに溶かしたところへ石炭の燃焼ガスによって炭素を燃焼させ、炭素を除去したもので、純鉄に近い。靭性があって鍛えることもでき、構造材や鉄道のレールにも使われた。
  鋼(こう、スティール):炭素含有量を0.3~2%程度に調整した合金で、硬さと靭性のバランスに優れていて、構造材として使われている。
  鋳鉄(ちゅうてつ、キャストアイアン):銑鉄の成分を炭素を2~6%程度、ケイ素を1~3%程度に調整し、型に流しこんで製品を作る「鋳造」に用いられる。大型ディーゼル機関のシリンダーやピストン、肉厚の鋳物鍋などは鋳鉄である。

2011-07-09

大学の同窓会

 東京商船大学27回生、神戸商船大学24期生の同窓会が東海汽船さるびあ丸で開催された。
 両学は同じ船で乗船実習をするのでお互いに顔見知りが多く、特に同じ船で遠洋航海実習をした者同士は仲間としての意識も強い。
 2時間あまりの東京湾クルーズだったが、一歩もデッキへは出ず、ずっと宴会場で飲んでいた。
 過ぎ去ってみれば30余年、しかし会えば学生の頃のままの間柄に戻ることができる。楽しい時間を過ごせた。毎回監事をつとめてくれる東京のT君F君に感謝!

2011-07-06

海洋科学高校の展示

 神奈川県立総合教育センター1階ロビーに海洋科学高校を紹介する展示を行った(7月15日まで)。
 課題研究の成果や生徒の作品、学校の特色がよくわかる教材・教具など多数の陳列をした。
 そのひとつとして、花毛布も飾った。今回は大作の「松竹梅」と「花二輪」。毛布が小振りでしかも薄くて腰が弱いので自立させにくかったが、なんとか見映えがするように折ることができた。
 船の世界ではロープの結び方は日本でも外国でも無数にあるが、これは実用だからだろう。花毛布は明治以来の日本船にだけ見られる習慣だ。永い船旅に潤いともてなしを演出するために、司厨手によって口伝で継承されてきた。この歴史に関しては明海大学の上杉准教授の論文『近現代の日本船における「花毛布」の継承』で詳しく紹介されている。
 最近では船の少人数化や、客船では羽根布団を使い傾向があることなどから、花毛布を飾る船は少なくなってきている。この文化を是非とも次の世代に継承したいと考えている。


花毛布の展示



花二輪



松竹梅




海洋科学高校全体の展示