2012-03-31

納得研究会(2012年第1回)

今年度第1回の納得研究会が青山学院大学で開催された。
研究会は14時からなので、昼食はメンバーに教えてもらっていたもうやんカレー246という店に決めていた。渋谷駅から青山学院に向かって宮益坂を登り切ったあたりにある。日曜日は定休で、月曜から土曜のお昼は1000円でランチバイキング、カレーとおかずが食べ放題で、コーヒーとルイボスティーも飲み放題。カレーは豚と牛の他に激辛ソースがある。バターライスと五穀ご飯、炒めたうどんそれぞれ好きなものにカレーをかけて、鶏肉やサラダ等いろいろをてんこ盛りにできるしおかわりも自由で、つい食べ過ぎてしまった。

午前中から雨混じりの強風で、電車のダイヤは乱れるし、傘は次々に壊れるし、大変な天候だった。雨は午後には止んだが、風が北寄りに変わって夜は冷え込んだ。しかし、発表後の議論は熱かった。
本日の発表は吉岡さん(立教大学特任准教授)と福田さん(横浜国立大学非常勤講師)。25人余りの出席で、とても盛況だった

【吉岡さんの発表】

ソクラテスメソッドの紹介と『対話による科学教育』の可能性について
応用哲学会のワークショップから。
先生も答えを知らないような授業、課題研究、総合的な学習の時間、STS(Science,Technology and Society)教育などに適用できるのではないか。
ソクラテスメソッドとは対話型教育の方法。レオナルドネルソンによって創始された。ソクラテスは自分の知識を教え込むのではなく、真理に至る道筋を求めることを重視し、質問、返答の吟味、再質問を繰り返した。

ソクラテスメソッドは、哲学者や哲学を教えるのではない。答えを求めるのではなく、学ぶ者を哲学者にする技術である。

カント(1724-1804)から始まっているらしい。
ソクラテス(469-399B.C.E.)、《問いの技術》と《「無知」の態度》、「無知」を明らかにする。事例から仮説を推論する。この方法を用いて、
トピックを選ぶ、
具体例を出しあう、
議論する、
吟味する、
(△△とは▼▼である)というような結論(定義付け)を導き出す。

ソクラテスメソッドにはドイツ方式とオランダ方式がある。
ドイツ方式はよりソクラテスが行った方法に近く、そもそもトピックの設定から参加者が案を出しあう(何について話し合うか等)。時間がかかる。

オランダ方式は、予め設定した問いやテーマについて話しあう。ある程度話し合ったら投票などの方法で決着をつける。など、ドイツ方式よりも短い時間で行える。

「友情」についてオランダ方式で対話を進める事例の紹介。
久しぶりに友人と会って楽しかった具体的なエピソードから、どこで会ったか、なぜ楽しかったのか、どんな話題だったのか・・・・・など、対話を進めて「友情」の概念を位置づけ、「友情とは・・・・・ことである」と定義付ける。

《感想》
授業の進行上、教師が生徒と対話しながら「ある価値を」誘導して定義付けることはあるが、私の場合は今のところ「教える」ことのほうが多い。しかし、教わったことは忘れやすく、自分が議論に参加してある結論(価値)を導いたことは、より理解が深まって転移可能な知識になる。

教師の役割は、「何でも知っている立場」から生徒に知識を授けるのではなく、生徒が授業に参加したくなるような場をデザインし、授業の進行を整えて結論をまとめ、生徒が知識を獲得することを援助することなのだと思う。

時間と学級規模の制約から、すべての単元についてこのような授業を行うことは無理かもしれない。また、受験や資格試験などの対応のために、従来から行われている「知識伝達型」の授業も全くは否定できない。しかし、学ぶことの楽しさや、知らなかったことを知る喜びを感じられるような、対話による授業を計画的に行うことができれば、従来型の授業に対しても生徒は「教えてもらう」受動的な参加ではなく、自分から学ぶ主体的な参加をするようになるのではないだろうか。

【福田さんの発表】
初等中等教育における対話による科学教育の可能性
~生物教育を例に~

1. 科学教育において対話はどのような意味を持つか?

科学教育についての言説:
教師は知っていて生徒に教える、事件や観察はそれを確かめさせるもの。

「中等理科教育法」で、空欄補充のプリントを用意する学生。
生物は生物に学ぶもの(「せいぶつ」は「いきものに」まなぶ)

「このカエル間違っている。」

2. 対話としてのレポート

都立小石川高校の生物の授業、小石川方式として都立高校の生物教育に広まっている。
自作テキスト「生物実習」担当班が事前に呼び実験を行う。その班がすべて準備する。
なんの為の実験かがわかっている。
レポートの提出と採点、再提出。
他人のを写す→不合格。初めて他人と問題が異なることに気づく。
同じ問題の人を探す。→議論が始まり相談が活発になる。

3. 教室を飛び出す

国立科学博物館の見学:教師自作のワークシートを持って
上野動物園の見学
自分で見てもらう。この動物のこの部分を見なさいという指示はする。
相手が何を見ているかを知ること。
どのように見ているかを教師が知ることも必要。
子供に正しい見方のチャンスはない。伝達メタファは?

科学者がやっていること、顕微鏡を作って見た人と、すでに顕微鏡が研究室にある人とは、見えが違う。
小石川方式では、どれくらいの生徒が乗ってくるのか。
→二種類の対話、自由な対話と意図された対話があるのではないか?
自由な対話は導入くらいでしかあり得ない。
一年間使って、ノートに自分なりの問いが蓄積される。
空欄補充問題との違いは、見ること。
生徒はどこをどう見るのかわからない。教師は意図した部分がある。
絵をかける人は見なくなってしまう。よく見なくてもそこそこかけてしまう。
授業でオープンエンド、芸術や文学解釈などでは対話が成立するのか?
そういう時には自由な対話ができるだろう。
患者のみたてはオープンではダメだと思うが。
自分が患者に対峙して得られる答えと、学生が対峙して得られる答えはちがう。
私なりの注射ということはあり得ないのではないか?

少しあるかな?
国語の場合と重なる。生徒との対話、生き物との対話。


《感想》
練習船で機関士を養成する教育を担当していた時のことを思い出した。
実習生ははじめのうち、機関室にある機器が視界に入ってはいても、それぞれの機械の名称も役割も全体の装置との関わりもわからない。
何をどう見れば良いのかわからない
出航し、機関室の当直に入って機関士(教官)の質問を受ける・・・教官と実習生の対話

○○ポンプの吐出圧力は?
電動機の電流値は?
燃料タンクの量は?
排気の温度は?
蒸気の圧力は?
それは何のための機械か?
・・・・・
・・・・・
教官とこうした対話を重ねるうちに,それまで機械であることはわかるけれどなんだかわからない,曖昧とした物体が,少しずつ姿を現して,本船の機関装置として役割を担うポンプであり,発電機であり,軸受けであり,熱交換器であり・・・と,ひとつひとつが意味を持った装置として見えてくる。

見えているということと、観る、視る、看る、診ることとは違う。
実習生は教官との対話を通して、機関室諸機器・装置の構成と役割、運転方法について視点を獲得し、自分で当直業務を行えるように育ってゆく。
「空欄補充」では技術も技能も獲得できず、それで覚えた「知識」は忘れてしまう。

懇親会は青山通りのGAYA aoyamaで。

2012-03-30

木住野トリオ

妻、娘と3人で木住野トリオを聴きに行った。場所は渋谷セルリアンタワー東急ホテル2階のJazz liveレストラン、JZ Brat。
本日の出演は、木住野佳子(p),佐藤慎一(b)岡部洋一(per)noon(vo)
木住野さん、春らしいピンクのドレスで登場。

【1回目】
プリマベーラ(オリジナル)
雪待月
凛嶺
上を向いて歩こう

ここからボーカルのnoonが入って4曲
It might as well be spring
Siesta(オリジナル)
Agua de Beber(おいしい水)
Chege de Saudade

【2回目】
So far away
ケ・セラ・セラ
One Note Samba
Englishman In New York
Face(オリジナル)
リベルタンゴ
極楽鳥(オリジナル)

【アンコール】
Desperado

年度末の金曜日、春らしい日和となったこの日にジャズを楽しむことができて幸せな気分だった。今回のゲストnoonという人は初めてだったが、早口言葉のようなアントニオ=カルロス=ジョビンの速い曲も小気味良く歌って、また聴きに来たいと思う素晴らしいボーカルだった。

2012-03-23

Steady as she goes!

3月中旬に行われた海技従事者国家試験(臨時日程)の合格発表があった。
 私の担任クラスから専攻科を修了した6名のうち,4名が三級海技士(機関)に,2名が内燃機関三級海技士(機関)に合格した。この1年は昨年度と同様,中間試験や期末試験の他に模擬試験を計画して,ほぼ毎月何らかの試験を行ってきた。過去の修了生が残してくれた口述試験対策の蓄積も,整理すると力強い参考資料となった。

 30年以上前に自分が受験した時,初めての国家試験でとても緊張したことを今でもよく覚えているが,あの頃は日本人外航船員は5~6万人いたので試験会場にはとても大勢の受験者がいた。今では日本人外航船員は2,000人を下回っており,それに比例して受験者も少なくなった。日本の船会社の支配下にある船腹数(日本商船隊)は減っていないので,外国人船員が日本の船を動かしているということになる。
 今回の修了生も全員が船会社に就職を決めており,4月からは皆が晴れて「免状持ち」の船員になる。彼らが海運の世界で活躍することを期待している。

 Steady as she goes!

2012-03-19

写真撮影講座! "学び"の魅力を伝えよう!

NPO法人 EDUCE TECHNOLOGIES主催の「写真撮影講座! "学び"の魅力を伝えよう!」に参加した。

 ワークショップでの学びを,表題のとおり,魅力的に伝えるために,どのように撮影するのかを学ぶワークショップだ。2月7日に東大の中原淳先生のブログで紹介があり,プロ写真家の見木久夫さんの指導を受けられるということで楽しみにしていた。

 東京メトロ八丁堀から徒歩4分の株式会社内田洋行「東京ユビキタス協創広場 CANVAS」を会場として,午前10時から午後5時半過ぎまで行われた。

 同じ場所の別の階では,日本生産性本部と東大中原研究室が主催する「人材育成の未来をACTする」というワークショップが開催されていて,そこへお邪魔して撮影実習する,ワークショップを実地本番で写真撮影するワークショップで,メタワークショップとでも言うのか,とても面白い試みだった。

 (なお,400枚以上の写真を撮影したが,現に行われているワークショップにお邪魔して撮影した写真なのでこのブログへの掲載はしない。)

【中原先生講演】

 1990年代には「ワークショップ」という言葉はあまり使われなかった。最近は一般的になってきたが,内容や参加者同士の相互交渉については注目されても,そのワークショップの様子を外に伝えたり記録に残したりする「技術」についてはあまり議論されてこなかった。

 ワークショップに集って「わかる人だけわかる世界」ではなく,ワークショップで行われている学びの魅力を外へ伝えて「みんながわかって参加できる世界」に広がることが大切である。

 fan研究,fan community research,fandom

 この場で起こっていることを,外に伝える,自分のために残す。


【写真ワーク(見木先生)】

1. 写真の技術概要的な説明

 (1)写真に必要な知識:テクニカル(露出,ピント,ブレ回避)とセンス(構図,タイミング,演出効果)の相乗。

 (2)レンズ(ピント,画角,絞り)とカメラ(シャッター,センサー)
画質と描写力はイコールではない。
 (3)レンズは一生もの,ボディは消耗品。
 (4)ワークショップでは広角が重要。
 (5)絞り:光量だけでなく,被写界深度(ピントの合う範囲)を決める。
 (6)シャッター:動くものを止めて撮れる。
 (7)ワークショップでは1/80秒以下のシャッター速度ではブレることが多い。

2. 実践1

 (1)参加者9名を2グループに分け,1グループが自己紹介などをして写真撮影についてディスカッションしているところを,もうひとつのグループが撮影する。
 (2)撮影した写真を全員の前で投影してリフレクション

3. 実践2
 (1)「人材育成の未来をACTする」ワークショップ会場に移動
 (2)こちらでは,120名くらいの参加者がグループに分かれて名刺交換している。すでに撮影実習は始まっていて,その様子を撮影する。
 (3)基調講演に続いて行われたアイスブレーキングを撮影する。
 (4)さらに会場を移して,中原研究室大学院生による人材育成に関する研究のポスターセッションの様子を,開始前から佳境に入るまで撮影する。
 (5)撮影した写真のリフレクション
 人物だけでなく,会場全体の様子や会場で使われている道具類など,その場を演出している物にも眼を向ける。
 会場が暗ければISO感度を上げる。画質は犠牲になるが,記録のためならば充分。
 ブレた写真は修整できないが,暗さはある程度補正できる。
 「その時その場」しかないので,取り残しのないようにたくさん撮影する。
 動きの一瞬を逃さないために待つ。
 良いアングルを探して動く。
 人のアップは顔が優先。
 スマートホンやコンパクトデジカメなど,いろいろな手段で普段から撮影することは練習になる。
 低い位置からの写真は立体的になるが威圧感も出る
 上からの写真は可愛さ・フレンドリーさが出る
 1枚の中に何もかもを入れようとしない。引き算で撮影する。人と人との関係性を表現する

 ワークショップ記録写真で大切なこと・・・「どんな人たちが,誰と,何を,どんな雰囲気で」

 雰囲気を伝えるモチーフ
 来場する人たち,熱く語る講師,語り合う人と人,書きとめている手元・・・

 人がいるから撮れるショット
 人がいないから撮れるショット

4. 実践3

 (1)東京学芸大学の高尾隆先生による,インプロビゼイション(即興演劇)による組織内教育,チーム作り,コミュニケーション作りに関する講演のあと,実際に即興演劇を行ってインプロを紹介している現場を撮影する。
 (2)リフレクション
 最高の瞬間を撮影する・・・対象を絞る,射程エリアを確保する,瞬間の捕捉
 一人,人と人,人と物
 ハンターとしての嗅覚
 笑顔・集中・手振り

【ワークショップに参加して】
 撮影は,「カメラ」の技術ではなく,「写真」の技術でもなく,「記録」の技術なのだと思った。その点では,日本科学未来館で行われた「ウメサオタダオ展」と関連が深い。もちろん,カメラを使って撮影する以上,カメラと写真の技術をみがくことは前提だが,何を,どのように記録して人に伝えるかが大切なのだと,改めて気付いた。
 今日撮影を行ったワークショップは,次の書籍が参考になる。
高尾隆・中原淳『インプロする組織』三省堂
中原淳・編著『職場学習の探求』日本生産性本部

2012-03-01

卒業式・修了式

海洋科学高校に改編されて4回目の卒業式・修了式が行われた。県内の高校で,「修了式」を行うのは専攻科を設置している本校だけだろう。高校3年を卒業して,さらに2年間の課程で学び,合計5年間を本校で過ごした今回の修了生は,5年前に「三崎水産高校」に入学した最後の生徒でもある。

 卒業生・修了生と担任はPTA役員手作りのコサージュをつけてもらって式に臨んだ。専攻科生は三級海技士の口述試験が控えているが、みな晴やかな顔をして巣立って行った。チューニックの制服もこれが見納めだ。

 花毛布とヒレ推進船の課題研究をした生徒も式後に挨拶に来てくれて、とても嬉しかった。この日のために仕事をしているんだと実感する一日だった。
 私の胸に着けてもらったコサージュは自宅に持ち帰り,グラスに生けた。しばらくは名残を楽しむことができる。