2015-08-20

学習環境デザイン研修講座

横浜国立大学と神奈川県総合教育センターが連携して開催している「学習環境デザイン研修講座」を受講した。講師はもちろん同大学教育人間科学部教授の有元典文先生。顔見知りのリピーターも多く、70名くらいの受講者で満員だった。
2006年8月21日に神奈川県立総合教育センター(亀井野庁舎)で初めて受講してから毎年この講座に参加していて、今年は記念すべき10回目となった。

1. 理論編
学習とは、できなかったことが経験や練習によってできるようになること。
人間は学習するいきものであり、この能力によって温暖な地域から極限の地域にいたるまで、本来の生理的な限界を超えて、地球上に広く分布するようになった。これは他の動物にはないこと。
学習することは未来を切り開くこと。
教室の中で達成することが学習の目標ではなく、教室の外で生きて行けるようになるために学習する。(教習所の中で運転するために車の練習をするのではなく、一般公道を走れるようになるために車を運転する練習をするはず。)
人は教わるのが得意、やらされ仕事に慣れている。
変な算数の問題の例(『認知的道具のデザイン』加藤浩・有元典文、編著、金子書房、pp.239-257)

エクササイズ1:次の英文の和訳をみんなの前で発表しましょう
Development is the activity of creating who you are by performing who you are not. It is an ensemble - not a solo performance. (Lois Holzman,2008)
(発達とは、自分ではないものを演ずることによって自分が何者であるかを創出する活動である。それはみんなの中で協同で行うことであって、単独で行うことではない。)
→みんなの前で発表?「間違えたら恥ずかしい、どうしよう」という気持ちになる。→生徒にとってのリスク

学習するためには、まだやり方を知らないことに取り組まなくてはなりません。言い換えると、私たちはリスクに向き合わなければなりません。(キャリー ロブマン,2007)

学習=やり方を知らないことに取り組む・・・リスクに取り組むこと→背伸びをして自分の未来を目指す。

教師→児童生徒を学習させる。新しいことに取り組むにはリスクをともなうから「リスクを減らす支援」が必要。

(みんなの前で立って発言しなさい・・・大きなリスク)
子供達が安心して学習に取り組めるような共同作業の場→学習環境
そのような場を作ること→学習環境のデザイン

エクササイズ2:アイスブレーキング
「宝探し」、受講者が隠した「宝」を講師が探す。講師が歩く方向に宝があれば、受講者は大きな拍手を、講師が宝から遠ざかれば受講者は拍手を小さくしてゆく。

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最近ナナメ読みした本のタイトル“Invisible man” 、(“The invisible man(透明人間)”とは違う本、定冠詞一つで大違い、英語は奥深いね!)との関連。
この本は、「普段は(いない人)のように誰からも注目されることなく、悪いことをした時だけ見咎められる人」という意味の Invesible Man というタイトルで、1950年代のアメリカの人種問題を扱っている。本の内容は学習とは関係ないが、問題を起こした時だけ顔が見える生徒は普段の学校生活では確かにinvisibleだなと思った。まだはじめの数ページだけしか読んでいないけれど。

「言いたいことがあるけれどみんなの前で発言するのは怖い」という生徒は、黙っていると教師からは見えない生徒になっていないか?このようなことにならないように、みんなが共同で学習に参加できるような場を作ること。教室の中にinvisibleな生徒を作らないように授業を 工夫することが必要だ。

ZPD(Zone of Proximal Development)
「ひとりでできることと」と「手助けされてできること」の間には、みんなと一緒ならできることがある。この領域。
図1が用いられることが多いが、最近、私は図2で説明するようにしている。
「みんなと一緒ならできること」はやがて「ひとりでできること」になり、「できること」の範囲が同心円のように広がってゆくような、視覚的な捉え方をねらって。


図1




図2





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エクササイズ3:ランダムウォークをして3人グループを作る。制限時間15分。
グループ内で自己紹介、これまでの研修内容について各グループから一つずつ質問を考える。
「コンセンサス法:グループ内全員一致でなくて良いから、考えは違っていても納得できる結論をひとつ導く」


エクササイズ4:7人で3分間劇を創作する
シーン1 よくない学習環境の授業
シーン2 改善した学習環境の授業

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初対面の人たちとわずかな時間内に寸劇を作る。できるのかな?と思うが、これが結構できる。
思えば人生は筋書きのないことばかり。台本のない人生を歩んでいるのだから、私たちは日常的に即興劇の演者ともいえる。

毎年同じ研修講座を受講しているが、内容は進化(深化)し続けている。繰り返すことで理解が進み、日々の授業にも研修の成果を少しずつ取り入れられるようになってきた。
継続は力なり!

2015-02-22

納得研究会(2015年第1回)

2015年第1回納得研究会に参加した。
日時:2月22日午後2時~5時
会場:立教大学
26名参加

◯報告1:「Brunerと意味の行為の照準」横山草介さん(青山学院大学大学院)

ブルーナーがその著書『Acts of meaning』(Bruner, 1990)において論じたのは「行為の意味(meaning of acts)」への探求ではなく、「意味の行為(acts of meaning)」への探求である。
Narrative Psychologyの学的潮流において「行為の意味」への探求といえば、それは、ある「行為」に文脈を付与する(em-plotting)ことによって、つまりは、物語化(en-storying)することによって、当該の行為の「意味」を把捉可能にすることを含意している。
Bruner(1986, 1990)は、疑いなく、こうした潮流のパイオニアに位置づけられてきた。そして、彼の著書『Acts of meaning』もまた、上の含意において「行為の意味(meaning of acts)」への探求を推し進める心理学の宣言書として位置づけられてきた。
だがしかし、著書の標題に明らかなように、Brunerが同著をして論じたのは「行為の意味(meaning of acts)」への探求ではなく、「意味の行為(acts of meaning)」への探求であった。我々は、今日のNarrative Psychologyの発展を主唱する多くの論者が、専ら「行為の意味(meaning of acts)」への探求に傾倒し、「意味の行為(acts of meaning)」への探求に関心を向けていないと考えている。
従って我々は今一度Brunerの『Acts of meaning』を「行為の意味論」としてではなく、「意味の行為論」として読み直す必要がある。

◯報告2:「協働で授業づくりをする学校風土:小田原市立泉中学校の実践報告」
伊藤由紀(小田原市立泉中学校)・有元典文(横浜国大教育人間科学部)

(1) 概要
管理職やベテラン教員が中心となって指導技術などを一方的に伝授する形の教員の養成・育成から、メンター制に代表されるように職場における同僚性を
活かした同僚同士による学びの支え合いへと潮流が変化してきている。こうした協働性は、学校内だけではなく、大学と学校間でも広まりを見せている。
いわゆる「理論と実践の往還」というスローガンは、大学教員、院生、実習生が教育現場に出向くことと、学校教員が大学において自らの実践を研究的に見返すこと、といった風に、具体的な人の往還として根付き始め、「実践の理論化」と「理論の実践化」が進行している。
このように教員の養成・研修・研究・実践の一体化が具体的に進行している様子を紹介したい。泉中は有元が入った6年前には課題の多い学校だったが、
「良い授業こそが積極的な生徒指導」という考えのもと学習意欲を高める授業づくりを全校一丸となって続けてきた。
伊藤からは具体的な授業づくりの過程とその生徒・教員への影響を、有元からはこうした過程をどのように理論的に支援したかについて、それぞれ報告し、実践と理論の往還の可能性と意義について議論したい。

(2) 小田原市立泉中学校の実践報告(良い授業こそが積極的な生徒指導)
(発表要旨)
平成21年授業改善を目的として校内研究を開始し、現在まで継続している。
当初の研究主題は「基礎・基本の定着を図る指導のあり方」だった。教員自身が「学びのあり方」について漠然としていたが、「基礎・基本」の前提にある「学ぶ意欲を喚起する働きかけ」について研修を重ねた。
意義や技法を十分に吟味した「小集団活動」を授業に取り入れ、生徒同士が互いにサポートし合う授業展開を工夫し、生徒の学ぶ意欲喚起につながった。有元教授が提唱する「主体的な学習を喚起する4つのキーワードRISPを題材設定や授業形態に取り入れ、研究を深める中で、子どもたちの学習意欲が高まり、基礎基本の定着が測れるようになってきた。
4年目からは研究主題を「学ぶ意欲を高め、主体的な学習態度を育てる指導のあり方」に変更した。学ぶ意欲を喚起し、主体的に学習する態度を育てる授業を仕組むことこそ、生徒の生きる力の糧になると考えた。
当初は「授業研究」「公開授業」に対する教員の温度差や無関心もあったが、現在では公開授業を全員が行っている。そのことが授業研究を継続する大きな支えとなっており、さらに、授業研究は教員同士の学び合い、若い教員への支援にもなっている。
※ 「主体的な学習を喚起する4つのキーワードRISP」とは
R:Reality ほんとうのこと
I:Identity わたしのこと
S:Significance かちあること
P:Participation なかまとともにすること

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20数年前に高校教員になったばかりの頃、教育センターで行われた生徒指導に関する研修会で高校時代の恩師に出会った。「教員は授業を通して生徒指導をするんだ」というその先生の言葉を教師としての自分の信条のひとつにしてきた。
泉中学の「良い授業こそが積極的な生徒指導」というスローガンは私の恩師の言葉と全く同じ意味で、今日の発表は共感するところがとても多かった。
学習指導要領に「言語活動」という文言が入り、中央教育審議会が授業を「アクティブラーニング」型に転換すべきと指摘すれば、現場では授業にグループワークを取り入れることになる。
グループワーク、アクティブラーニングの背景に何があり、それによって生徒に達成してほしいこと、それをすることによる効果はなにか。その検討なしに形態だけを取り入れても、ただ行政文書に書かれていることをやっただけになってしまう。
平成21年からの泉中の取り組みは、授業研究を通して教師が研究と学びを続ける風土を学校に醸成したのだと思う。