2013-03-31

納得研究会(2013年第1回)

東京港晴海埠頭停泊中の練習船日本丸で、今年度第1回の納得研究会が開催された。35名出席。
船での開催は、2008年12月20日大成丸(蒸気タービン船)、2010年6月19日青雲丸(ディーゼル船)に続く3回目となった。


日本丸といえば我が国では知らない人はいないであろう有名な練習帆船である。1930年に建造された日本丸(初代、横浜みなと博物館に係留されている)の代船として1984年に建造された。

東京海洋大学、神戸大学、商船高等専門学校、海上技術短期大学校、海上技術学校などの学生生徒を乗船させ、海技士としての知識・技術・技能を教育訓練するための船である。




今回の納得研究会は、教育現場からの研究報告4本だった。



◯報告1:坂さん:「練習船における船員養成のための学習環境デザイン」とガイドツアー

船員養成を行う練習船で活動においてリーダシップやチームワークといった人的資源の管理能力がどのようにして醸成されるかの可能性を社会文化的
アプローチにより明らかにするとともに,その学習環境デザインに関する提言を行う。


STCW条約改正によって、船員の教育訓練に、意思伝達能力、リーダーシップ、コミュニケーション能力要件が追加された。これらはどのようにして身につくのか。

条約で、BRM(Bridge Resource Management),ERM(Engine room Resource Management)の教育訓練が義務づけられたが、これは航空機のCRM(Cockpit Resource Management)を参考に導入された。

ここでリソースとは、人、機器、情報など、船の安全を保つためのすべてを含む。

(1) 練習船における実際の教育訓練場面から「主機ピストン抜き」作業を観察し、リーダーシップや意思伝達能力がどのように発揮されているか、どのように訓練されていいるかを分析した。

実習生を上段配置、中段配置、下段配置にわけ、総指揮、総指揮サブの3名の実習生に全体を指揮させた。

このリーダー役3名が作業全般を仕切ると思っていたが、各配置間の状況把握に齟齬を生ずる場面があり、必ずしもリーダー役が全体を把握しているとはいえない状況があった。

このようなプロジェクト型の実習場面ではリーダーシップは、短期的・局所的に発揮されてゆくという特徴が見えた。


(2) 実習生がいない機関士・機関部員だけの作業場面。

ドックを出るときの機関プラント立ち上げ作業。

先輩機関士が新人機関士に一連の作業の"一部を委譲"して(作業を「分けて」あげて)経験させる場面と、ある作業についてその一連を"すべて委譲"して行わせる場面があった。


陸上電源から船内電源への切り替え、「落としたらすぐ切り替えるから…」と言ってすべてを後輩にやらせる。


(3) これらの研究の端緒

寄港地先で最もよく受ける質問「一般の船の船員養成になぜ帆船の実習が必要なのか?」

これに明確に答えたいという思いから。


[参加者の意見・感想]
(1)技術の保存は大切なことだと思う。帆船自体を商用で使うことはないけれど、帆船は船の運航技術の基本であると同時に建造技術の基本でもある。一度途絶えてしまったら、復活は難しい。

日本のすべての船員が帆船教育を受けている訳ではないが、帆船で教育を受けた者がいるということに価値があるのではないか。教育が行われた直後に数値で測ることのできない価値もあるのではないか。

(2)大型帆船の操船を体で体験するのは歴史的社会的価値のあることだと思う。



◯報告2:横山さん:「ナラティヴの重奏化による文化的実践の生成」

学校(教室)というフィールドは「一方向的」で「モノロジカル」な、「教師」による「知識伝達」の現場として批判的に語られることが多い。

あらゆる関係を「学習」の基軸として捉える枠組み「状況的学習理論」の脈絡においても、学校は特殊な現場として検討の埒外に置かれた。

学校を日常的脈絡から逸脱した現場として描き出す方略は「日常のフィールド」と「学校のフィールド」とを二元論的に検討する議論を活性した。

しかし、学校という現場もまた、多様な社会的関わり合いに否応なく巻き込まれる「日常」の存する場である。

授業において、教師が如何に「モノロジカル」に「一方向的」に「知識伝達」を行っていたとしても、教室には複数の声が介在している(授業と関係なく/授業と関係して)。

さらに、学校は授業時間だけで構成されているわけではない。むしろ日常的な時間の流れを「単位化」したものが授業時間であると考えるならば、非-授業の時間が存する。本研究は「単声的な場」として特徴づけられることの多かった学校(教室)という現場を「多声的な場」として位置づけ直すことから研究を始める。


学校と日常の二元論

スーパーマーケットの算数、買い物客の計算と算数テストにおける実力を比較。
スーパーマーケットでは98パーセント正解。
算数テストでは59パーセント正解。
テストとスーパーマーケットでは問題解決の状況が異なる。

学校は日常とかけ離れた特殊な場所である。
Lave示したのは学校批判ではなく状況性の話である。


生徒が毎日書くノート(毎日書いて提出する生活ノートのような)から、子供の生活の様子をみる。
授業のことだけでなく休み時間のこと、学校への行き帰りのことなどが記されている。
学校は子供たちの「日常」の中にあるのではないか。


学校は脱文脈的である。しかし、学校もまた社会的日常の場である。と思う。
学校もまたそこに集う人々による日常の場である。家庭と学校で異なる実践様式を求められる。
学習とは多重参加と多重適応なのか。
個人的なパースペクティブと社会文化的なパースペクティブの接触領域におけるダイナミックな重層化。

ナラティブの一致とズレ
これをどのように研究としてまとめられるか、それをまたどのように現場に還元できるか。



[参加者の意見・感想]
(1)もちろん学校も社会的日常だが教育という機能上は、学校は社会的日常のための訓練の場である。
学校の中の実現のために学校があるのではなく、学校の外(日常での生活)を実現するための場であるはずだ。
(2)子供にとっての学校は日常の一つといえるのではないか。
(3)学校では「書く」ことが求められるのだなと実感した。しかし、言葉にならない豊かさが押さえ込まれている側面もある。書くことが苦手な子供もいる。1−2行しか書けない子供を大切にすべきだ。


◯報告3:佐々木さん:「アシスタント・ティーチャーを活用した授業デザインの分析」

本研究は,学校現場におけるアシスタント・ティーチャー(AT)の参与により,担任の「困り感」や授業デザインがどのように変化するかを記述した。授業は,教師・児童・ATそれぞれが授業という場に参加することで達成される。

本研究では,ATが授業の「集団的達成」に貢献し得ることを記述した。
一方ATの参与には,担任教師との連携による,学級経営の意向を酌んだ参加が求められることも示唆された。

ATとして小学校の授業に継続的に参与し、授業の分析と教師へのインタビューを行った。


困り感のある児童、授業中に大声立ち歩き
教師のスキルや熟達、授業デザインによるところが大きいのではないか。
個別の対応が必要、授業支援者が入った時の授業構造

エスノメソドロジー(人々の方法論)
授業にどのような変化が現れるか。
仮説、授業行動の変化、困り間の減少、ATとTTの違い
担任のみ、担任とTT、担任とAT
ビデオ、トランスクリプト、発話分析


ATが参与することのメリットとデメリット。
生徒にとってATは教師ではなく大学生のお姉さんなので話しかけやすく、授業内容と関わりなく話しかける場面もあった。

必要としている子供のところにATが入ることで個人の学びを促進することができる。
しかし、授業ビデオを見ると、ATが入っているときには教師は教壇から生徒の席に降りてこないことが多かった。

机間指導によって生徒のつまずきやわかりにくいところを教師が把握し、全体に還元することが授業作りではないか。



[参加者の意見・感想]
(1)AT、TTによって教師の熟達度は低くなると思う。困った生徒への対応をしながら全体を統制して行く力をつけてゆくべきだ。

困った生徒を可視化し、ますます「困った子」にしていくのではないか。子供の方がわかっていて、「この子がこう言うのはこういうことなんだよ」と教えてくれることもある。
(2)ATが入ることによって見えてくることと見えなくなっていることがあると思った。

(3)(発言しなかったけど)私の学校ではいくつかの科目で、クラスを単純に2分割して少人数授業を実施している。クラスを2分割せずにTTを配置して寿魚を行う方法と比較する必要があるのではないかと思った。


◯報告4:岡本さん:「高校での健康教育活動(健康教室)の学習環境デザイン」

発表者が養護教諭として勤務する高校で、1、2学年を対象に、それぞれ年一回健康教室を実施してきた。

生徒が自らの心身の健康について考える契機となる教育を目指し、

(1)保健委員の生徒達が授業を展開
(2)大学と共同での教材開発
(3)大学生・大学院生ボランティアを各クラスに配置、共同で実施する

という工夫を行ってきた。これまでの活動テーマは「デートDV」「性感染症」「人間関係」である。
これらの成果と課題について報告する。

各クラスの保険委員を集め、健康教室を企画、準備し、生徒主体で実施した。:鵜飼い方式
それぞれのテーマに沿って、保険委員を中心として生徒がロールプレイングの授業を考え、体育館で実施した。
優秀賞などの発表もあり、力の入ったグループは盛り上がった。


[参加者の意見・感想]
(1)非常にうまく行っているなと思う。健康教室だけでなく、生徒に授業させる、ロールプレイングというか、ドラマを生徒に作らせることで学びへの参加意欲が高まる。

国語でも社会でも人間理解に関わることは自分たちで演じて見る。

このような授業のあり様を広めてもらいたいと思った。

(2)30年前の高校でこのような授業形態だった

(3)効果の測定ということでは、プリテスト、ポストテストによる比較をした論文がおおいけれど、それは違いが出るに違いないけれどそういう単純なことでもないと思う。

(4)効果の測定、中絶率の変化などでみるしかないのかなぁ?

(5)ソーシャルスキルトレーニングは大切だと思っている。あとから評価するならば、二年生の授業を三年生が行うなど。

(6)事後の「効果測定」として、時間をおいてからテーマに関する体験について話し合ったりするのは、効果の測定と再学習をかねてより累進的な学びがありそうです。



懇親会
恒例、納得研究会のあとは懇親会。今回は船長や航空機のパイロットなどがよく集まるお店、銀座のAmberでワイン、ビールなど楽しみました。このお店はアップルパイもおいしいそうです。

キャプテン、ありがとうございました。

2013-03-17

写真ワークショップ

東京都写真美術館(恵比寿)で開催された写真のワークショップに参加した。

参加者が持ち込んだデジタル写真のデータからネガフィルムを作成してもらい、そのネガフィルムから白黒プリントを作成する。

私が持ち込んだのはラグビーの写真1枚、そして神戸の西村コーヒー本店前で娘を写した1枚で、とても気に入っている写真だ。

暗室作業は30年振りくらいなのでとても楽しみにしていたが、初めて見る電動の引き延ばし機に驚いてしまった。




電動の引き延ばし機


引き延ばしレンズ


現像液、停止液、定着液、水洗い


参加者の作品講評


私の作品

露光テスト、現像・停止・定着、覆い焼きなど色々な作業を、30年前を思い出しながら行った。

印画紙に露光したあと、現像液に浸けると30秒から60秒ほどで絵が浮かび上がってくる。とてもワクワクする瞬間だ。

自宅でもやってみたいが、暗室を作ったり、引き延ばし機を購入したりはできそうもないので、今回のような催しはとても助かる。


次回は鶏卵紙に印画するワークショップがあるので申し込んだ。抽選結果を楽しみに待つことにする。

2013-03-04

専攻科修了式

第5回海洋科学高校卒業式・修了式が行われた。

本科生141名卒業、専攻科生徒16修了した(専攻科のうち7名は私のクラスから)。

専攻科生は本校が海洋科学高校に改編された年に入学した「海洋科学科」の1期生だ。

専攻科水産工学科は「内燃機関三級海技士(機関)」の第1種養成施設として認定されている。しかし、生徒は機関の限定のない「三級海技士(機関)」を取得するために、課程認定の特典をあえて使わず、運輸局で三級海技士(機関)の筆記試験に挑戦してきた。

皆よく勉強するので、三級海技士(機関)の合格者が年々増えてきている。3月中旬から下旬にかけて口述試験が行われる。

生徒は満面の笑みを浮かべて正門を後にし、別れを惜しむ間も無しに関東運輸局に本日締め切りの口述試験の受験申請をしに行った。