2009-06-27

納得研究会

 2ヶ月ぶりの納得研究会,青山学院大学のガウチャーメモリアルホール9階で開催された。


 三本の発表。

 私からスパゲティカンチレバーの報告。

東京都市大学の上野先生とソーヤー先生から「Web 技術の学習環境のデザインの分析」

佐伯先生から、「発達の最近接領域」と「正統的周辺参加」に関し、ご自身が「目からウロコ」の落ちる思いをされた論文紹介。




報告1 「情報デザインの要素を取り入れた教材開発と実践」
スパゲティカンチレバー(Spaghetti Cantilever)の授業実践を報告した。アメリカの高校の物理オリンピックの企画を参考にした教材である。
グループで協力し、いろいろな視点を交換し合いながら、茹でていないスパゲティを水平方向に伸ばす方法を考える。簡単そうに思えるが、やってみると意外にうまくできない。そのギャップに直面して、生徒は工夫して何とかより良い方法を見つけようとして協力しながら改善してゆく。
 この過程では、「考え」をことばに表し、他人と共有することが必要である。正解といえるものはなく、どのように考えて、どのように改善したか。そこが問われる。cantileverは「片持ち梁」なのだが、工学的に定量的な検討を行うことまでは求めていない。しかし、「だんだん細くしてゆくと長く伸ばせる」とか、「ずっと太いままだと折れやすい」などのことに気付いてくれたらいいな・・・という期待はしていて、実際にそのような生徒もいた。
 スパゲティという身近な食材に対する親近性、しかしそれが教材となると「何だろう?」という新規性を持つ。そこをねらった実践だった。
 報告のあと、「本来は物理オリンピックの種目なのだから、物理的・工学的な意味を捨象してしまっては教材としての意味が半減するのではないか。グループワークだけに注目して班員の協力ということのみを目的とした実践ならば、疑問」との意見をいただいた。
  確かに、ホームルーム活動や新入生に対する「クラス開き」のようなアクティビティなら「班員の協力」のみを目的とすることも可である。この教材を教科・科目の1単元として育てる上で貴重な視点をいただいた。

報告2「Web 技術の学習環境のデザインの分析」
東京都市環境情報学部 上野直樹先生・ソーヤーりえこ先生
ソーヤー先生
(1)ワークプレイスの学習環境のデザイン
リベリヤの仕立て屋の徒弟制度、正統的周辺参加:最初はボタン付けなどの簡単な作業から参加し、初心者は全体の作業を俯瞰しながら徐々に難度の高い作業ができるようになる。
 一方、あまりに細かく分業が進んだ肉屋では、包装作業などを担当する初心者は、長期間にわたってその業務に従事していると、肉屋の業務全般を俯瞰的に学ぶことを妨げられているという事例。
 ユカタン半島の産婆の事例:職人の徒弟制度とはちょっと異なり、産婆に弟子入りしたわけではないが、産婆の孫がやがて人のお産を手伝うようになり産婆になってゆく。
 Wenger(1990)の保険会社におけるCOBシート:保険契約者からの保険請求について、処理係は計算はできるが「なぜそのような計算になるのか」は説明ができなかったりする。これは文化的に不透明、ブラックボックスである。確定申告でも同じようなことがあって、税金還付の数式の使い方の説明はできるが、なぜそのような計算式になるのかは説明できないことがある。
Webのコーディングのあり方もブラックボックス化するのではないか。

(2)webシステムを研究している学生のシステムの構築の仕方。
 ある学生はさまざまな表示ができるブログシステムを作るとき、はじめは従来的方法でゼロからすべて自分で構築しようとした。しかし、先輩たちから教えられたり、先輩たちのやり方を見たりするうちに、世界中のサーバーに分散しているいろいろなプログラムやデータベースを利用しながら作るようになった。これは、いろいろなところから提供されているコンテンツや技術を組み合わせて新しいサービスやシステムを作り上げる「マッシュアップ」と呼ばれる方法である。(このように情報の送り手と受け手が以前のように固定化されず、相互に流動的に発信・受信できる状況をWeb2.0と呼ぶ)。

上野先生
 最近のWeb2.0の状況、それを利用する学生の状況の紹介もあった。
 NOTA(Webにアップした画像をでいろいろな人と共同で編集し、付箋などもつけられるサービス)
 Twitter(140字ほどのマイクロブログ。イランでは当局の検閲もすり抜けて世界中に国内の状況を発信する道具として使われ、米国大統領オバマ氏は選挙戦略に活用した)
 Ustream(ビデオを手軽にストリーミング配信するサービス、ブログにも貼れる。ストリーミング配信は、ハードディスクに保存することなく再生する配信方法)。
 これらは時空を超えた擬似同時性が特徴で、こうしたWebシステムは社会的アーキテクチャになりつつある。参考ページ。
ネト充:リアルから離れてしまったわけではなく、リアルな経験の社会的構造をWebというメディアによって大きく作り変えた生活をしている人のこと。(実生活が充実している人はリア充)。
 ネットゲームから抜けられなくなった人はネトゲー廃人と呼ばれ、本日の研究会ではネトゲー廃人から生還した人もいるような?これは冗談だったのか?

報告3 「最近読んだ「目からウロコ」論文」
 佐伯先生のwebコラムから、ヴィゴツキーの最近接発達領域(ZPD)について、主観的ZPDと客観的ZPDに分けて考えるべきではないかというChaiklinの考え方の説明があった(。詳しくは佐伯先生のWebコラム参照)。
チンパンジーに餌をとるときの手続きをやって見せると始めはまねする。しかし、餌の箱を透明にして、手続きの始めの2~3ステップがまったく餌と関連がないことがわかると、はじめの2~3ステップを省略して目的の餌をすぐにとる。
 同じことを人間の子供にやらせると、菓子をしまっていた箱を透明にして、始めの2~3ステップの手続きが菓子を取ることと無関係なことが一目瞭然なのに、その手続きを省略せずに呪文のごとく、教えられたとおりに真似する。
 また、アメリカのある家庭の主婦の得意料理はハムのローストである。彼女はハムの両端を必ず切り落としてから料理する。ある日彼女の母親が久しぶりに訪れてその様子を見たときのやりとり。
 母親「あなた何故ハムの両端を切り落とすの?」
 主婦「だってお母さんいつもそうしていたじゃない」
 母親「あの頃はフライパンが小さかったから、ハムの両端を切らないと料理できなかったのよ」
 これは意味がまったくわからないことをそっくりそのまま模倣することで、このようなことは学校では往々にして生徒が求められている行動様式である。
 ところで、アメリカという国では議論に参加する糸口がとても大切である。待っていてはまったく発言できず、結果として「いない人」のように思われてしまう。そのようなときにどうやって発言するか?
 人がなにか発言したら間髪をいれずまず「I don't think so!」と発言する。そうすると皆が黙るから、それから考えて発言すればよい。

 このあと18時から「もつ吉 青山店」で佐伯先生の誕生日お祝い会兼懇親会。研究会のときよりも人数が増えて、25名くらいの参加で盛り上がった。隣の席になった浜松学院大学の文野先生とのお話の中で、かつて小笠原に通って現地の研究をされたことがあったそうだ。小笠原諸島は日本列島などからちぎれてできた島ではなく、海底火山が隆起してできた島で、なおかつ遠く離れているので、生物の生態系が独立して進化しているとのこと。小笠原にしかいない鳥とか貝もあるらしい。
 その行き帰りの船は片道25時間半くらいかかる。文野先生の話では、船室の枕元にある洗面器を見ただけで船酔いが始まった。日常生活では、洗面器は顔を洗うことをアフォードするが、船の客室の枕元においてある洗面器は「別のこと」をアフォードする。
 なるほど。かつて船乗りだった頃、私も2回ほど行ったことがありますが,私の居室の枕元に、洗面器は置いてありませんでした。

2009-06-21

ラグビーの応援

 大学ラグビーの練習試合を応援に行った。なかなか出場機会のない息子だが,今日はDチームの後半にフッカーとして出場できた。

 1枚目の写真は相手校のナンバー8にタックルを決めた直後。かろうじて背番号19が読み取れる。


 2枚目の写真はラインアウトでボールをスローインするところ。後半だけの出場だったが,チームとしては7点差の勝利だった。7点差といっても,ラグビーの場合は1トライで5点,トライ後のコンバージョンゴールを決めると2点なので,僅差ではある。

2009-06-19

水産教育研究会

 6月18日から19日にかけて一泊二日で『全国水産高等学校水産教育研究会 関東・東海地区研究協議会』という催しに出席した。

全国47校の水産高校(普通科併置などを含む)を,北から南まで7ブロックに分けたうちの関東・東海地区11校の研究協議会である。
 5つの分科会に分かれて発表が行われた。私からは,昨年11月に横浜国立大学で開催された「ヒレ推進コンテスト」に生徒が出場したことと,その概要を本年3月14日に東京海洋大学で開催された「海洋教育セミナー(日本海洋工学会主催)」で,生徒自身が大学院生や大学生と同じ演壇から発表したことを報告した。
 ヒレ推進コンテストに参加しただけで終わらせず,その体験を公の場で発表することで,生徒は「何を体験したのか」,「そこにどんな意味があったのか」,「その体験をこれからの自分たちにどう反映させたいのか」を振り返り,体験を学びに昇華させることができたというのが報告の趣旨であった。
 残念ながら,全国大会への選出は「次点」ということだった。しかし,今回の研究協議会での報告を通して,自分自身にとっても,ヒレ推進コンテストへの出場と海洋教育セミナーでの発表を指導したことを振り返る良い機会となった。