2015-02-22

納得研究会(2015年第1回)

2015年第1回納得研究会に参加した。
日時:2月22日午後2時~5時
会場:立教大学
26名参加

◯報告1:「Brunerと意味の行為の照準」横山草介さん(青山学院大学大学院)

ブルーナーがその著書『Acts of meaning』(Bruner, 1990)において論じたのは「行為の意味(meaning of acts)」への探求ではなく、「意味の行為(acts of meaning)」への探求である。
Narrative Psychologyの学的潮流において「行為の意味」への探求といえば、それは、ある「行為」に文脈を付与する(em-plotting)ことによって、つまりは、物語化(en-storying)することによって、当該の行為の「意味」を把捉可能にすることを含意している。
Bruner(1986, 1990)は、疑いなく、こうした潮流のパイオニアに位置づけられてきた。そして、彼の著書『Acts of meaning』もまた、上の含意において「行為の意味(meaning of acts)」への探求を推し進める心理学の宣言書として位置づけられてきた。
だがしかし、著書の標題に明らかなように、Brunerが同著をして論じたのは「行為の意味(meaning of acts)」への探求ではなく、「意味の行為(acts of meaning)」への探求であった。我々は、今日のNarrative Psychologyの発展を主唱する多くの論者が、専ら「行為の意味(meaning of acts)」への探求に傾倒し、「意味の行為(acts of meaning)」への探求に関心を向けていないと考えている。
従って我々は今一度Brunerの『Acts of meaning』を「行為の意味論」としてではなく、「意味の行為論」として読み直す必要がある。

◯報告2:「協働で授業づくりをする学校風土:小田原市立泉中学校の実践報告」
伊藤由紀(小田原市立泉中学校)・有元典文(横浜国大教育人間科学部)

(1) 概要
管理職やベテラン教員が中心となって指導技術などを一方的に伝授する形の教員の養成・育成から、メンター制に代表されるように職場における同僚性を
活かした同僚同士による学びの支え合いへと潮流が変化してきている。こうした協働性は、学校内だけではなく、大学と学校間でも広まりを見せている。
いわゆる「理論と実践の往還」というスローガンは、大学教員、院生、実習生が教育現場に出向くことと、学校教員が大学において自らの実践を研究的に見返すこと、といった風に、具体的な人の往還として根付き始め、「実践の理論化」と「理論の実践化」が進行している。
このように教員の養成・研修・研究・実践の一体化が具体的に進行している様子を紹介したい。泉中は有元が入った6年前には課題の多い学校だったが、
「良い授業こそが積極的な生徒指導」という考えのもと学習意欲を高める授業づくりを全校一丸となって続けてきた。
伊藤からは具体的な授業づくりの過程とその生徒・教員への影響を、有元からはこうした過程をどのように理論的に支援したかについて、それぞれ報告し、実践と理論の往還の可能性と意義について議論したい。

(2) 小田原市立泉中学校の実践報告(良い授業こそが積極的な生徒指導)
(発表要旨)
平成21年授業改善を目的として校内研究を開始し、現在まで継続している。
当初の研究主題は「基礎・基本の定着を図る指導のあり方」だった。教員自身が「学びのあり方」について漠然としていたが、「基礎・基本」の前提にある「学ぶ意欲を喚起する働きかけ」について研修を重ねた。
意義や技法を十分に吟味した「小集団活動」を授業に取り入れ、生徒同士が互いにサポートし合う授業展開を工夫し、生徒の学ぶ意欲喚起につながった。有元教授が提唱する「主体的な学習を喚起する4つのキーワードRISPを題材設定や授業形態に取り入れ、研究を深める中で、子どもたちの学習意欲が高まり、基礎基本の定着が測れるようになってきた。
4年目からは研究主題を「学ぶ意欲を高め、主体的な学習態度を育てる指導のあり方」に変更した。学ぶ意欲を喚起し、主体的に学習する態度を育てる授業を仕組むことこそ、生徒の生きる力の糧になると考えた。
当初は「授業研究」「公開授業」に対する教員の温度差や無関心もあったが、現在では公開授業を全員が行っている。そのことが授業研究を継続する大きな支えとなっており、さらに、授業研究は教員同士の学び合い、若い教員への支援にもなっている。
※ 「主体的な学習を喚起する4つのキーワードRISP」とは
R:Reality ほんとうのこと
I:Identity わたしのこと
S:Significance かちあること
P:Participation なかまとともにすること

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20数年前に高校教員になったばかりの頃、教育センターで行われた生徒指導に関する研修会で高校時代の恩師に出会った。「教員は授業を通して生徒指導をするんだ」というその先生の言葉を教師としての自分の信条のひとつにしてきた。
泉中学の「良い授業こそが積極的な生徒指導」というスローガンは私の恩師の言葉と全く同じ意味で、今日の発表は共感するところがとても多かった。
学習指導要領に「言語活動」という文言が入り、中央教育審議会が授業を「アクティブラーニング」型に転換すべきと指摘すれば、現場では授業にグループワークを取り入れることになる。
グループワーク、アクティブラーニングの背景に何があり、それによって生徒に達成してほしいこと、それをすることによる効果はなにか。その検討なしに形態だけを取り入れても、ただ行政文書に書かれていることをやっただけになってしまう。
平成21年からの泉中の取り組みは、授業研究を通して教師が研究と学びを続ける風土を学校に醸成したのだと思う。