第3回全国情報教育研究会に参加した。
今年は4枚カード問題の実践をポスターセッションの場で、参加者の協力を得て授業実践の再現をしながら発表した。
(1)基調講演
文部科学省初等中等教育局視学官の永井克昇先生から、次のような基調講演をいただいた。
H21年3月 学習指導要領改定(教科情報に関して)
ホップ(現行)→ステップ(新)→ジャンプ(新新)
平成18年10月の未履修問題:平成17年6月に中教審で新しい学習指導要領への答申が出されて、その議論が活発になっていた時期だった。共通教科情報を必履修にすべきなのかどうかという議論の矢先だった。
結果、共通教科として続けることになった。
ホップとステップは同じ足、ジャンプは違う足。だから飛距離はジャンプで伸びる。教科「情報」についても、大きな飛躍をしたい。ホップでもステップでもなく、ジャンプさせたい。
☆学習指導要領上の「情報活用能力」について繰り返し述べてきたのだが、それにもかかわらず、「情報活用能力=コンピュータ操作スキル、情報教育=そのスキルアップ教育」という「有識者」がまだいる。
すべての国民が、高等学校を終えて社会に出たときに情報活用能力を身につけさせることが高校教育の使命だと考えている。
☆情報活用の実践力、情報の科学的理解、情報社会に参画する態度。これは、「指先のスキル」アップを求めているのではない。
☆情報活用能力は、「読み・書き・計算」に並ぶ4番目の基礎力。必須の能力である。ここにお集まりの先生方にはいたって単純明快なのだが、改めて共通理解としたい。
☆情報教育の目標の3観点
「わが国の情報教育は、互いに独立性の強い「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「上社会に参画する態度」をひとつの統合された力として、バランスよく見につけさせようという理念を持って実践されている。この理念が諸外国と異なるため、わが国の情報教育を「日本型情報教育」と呼ぶことができる。
☆高等学校教育のキーワード:次の二つが重要
共通性:高等学校教育の質の保証(子供たちに対して担保する)
多様性:学校裁量の拡大(各学校の判断に任せる)
「二兎を追う者は一兎をも得ず」というが、高等学校教育の場合には、「二兎を追って、二兎とも得る」ことが課せられている。共通性を担保しつつ、多様性を学校の裁量に任せる。学校の取り組みを見ていると、多様性に偏って、共通性を見失っている場合もある。共通性を担保しつつ、多様性を充実させるべきである。
☆第2期目を迎えるに当たって改めて新設の経緯を共有する。
○情報科の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進に関する調査研究協力者会議」第一次答申、平成9年10月。「コンピュータ等の情報手段を積極的に活用する科目を設けるなど、選択の幅を確保することが望ましい」・・・当時は必ずしもすべての中学生がコンピュータの取り扱いをしてきたわけではないので、コンピュータの操作にかかわる教育も必要だった。
○教育課程審議会答申」平成10年7月
いまさらながらなのだが,教科「情報」新設の経緯を共有しておく必要がある。
☆共通教科「情報」はなぜ必履修でなければならないのか。
中教審答申」平成20年1月17日
① 高等学校においては、普通教育として、ずべての生徒に対し、日常生活を営む上で共通に必要とされる知識・技能を習得させ、それを活用する能力を伸ばし、調和の取れた人間の育成を目指すことから、引き続き、必履修教科・科目を設定することが適当である。
必履修教科であるということは、子供たちに最低限必要な、人間としての生きる力、情報活用能力とは何なのかを問う必要がある。指先スキルではない。
② 現在の必履修とすべき教科の範囲は、いずれも高校生にとって必要最低限の知識・技能と教養を身につけるために必要なものであると考えられる。
中教審答申」平成20年1月17日
① 情報教育が目指している情報活用能力を育むことは、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とともに、発表、記録、要約,報告といった知識、技能を活用して行う言語活動の基盤となるものである。
☆ 「言語活動の基盤」:日本型情報教育を通じて、情報教育をおこなっているが、その基盤となるものは言語活動の充実である。
☆ これからの高校生にどういった力を身につけさせるのか。
①生きる力:学習指導要領の根本的な考え方。
豊かな学力
豊かな人間性
健康・体力
②キーコンピテンシー(主要能力)
③社会人基礎力
④就職基礎能力
⑤学士力
⑥21世紀型スキル:これらを一つ一つよく見て見ると、新規性があるといえるのか?平成15以来の教科情報で行ってきたことではないのか。(思考力、コミュニケーション能力、コラボレーション能力、ICT活用能力、個人の責任)。教科情報の我々にとっては当たり前のことである。情報の授業のプロセスである。情報科の狙いそのものである。
さまざまな○○力と言うのが提唱されているが、少なくとも教科情報ではこれらのことは包含されてきた。
☆☆共通教科情報では、国民必須のこのような力はこれまでもおこなってきた。
環境教育、国際理解教育・・・・・○○教育と言うのがこのごろ多いが、それぞれの○○教育で身につけさせたい力を列挙したら、スライド6になる。□□□□□で身につけてほしい力。この16個すべてにあてはまるのは、「日本型情報教育」である。
○○教育のすべてにかかわるのが情報教育である。コンピュータスキル教育などと言うことは微塵も出てこない。社会的地位ある人のなかに、コンピュータスキル教育に傾倒している人がいるのはいかがなものか。
☆国民必須の力
読む・書く・計算する+情報活用能力
学校教育(学習指導要領)
総合的な学習の時間「国語・地理歴史・公民・数学・理科・保健体育・芸術・外国語・情報」これらについて総合化する。分業としての学びを総合化・統合化する。
☆新学習指導要領
これまで中央説明会などで説明してきたが、その中で、主に多く質問されたことについて。
教科「情報」の論点:
○ 学校がいずれかひとつの科目に決めてしまうのではなく、両科目(社会と情報、情報の科学)を開設して、生徒が主体的に選択できるようにすることが望まれる。←子供たちが決めることと言うメッセージ。しかしながら「望まれる」というところがポイント。学校の実態、施設・設備、教員の配置などの問題などがあるので、結果として学校がひとつに決めてしまうこともあり得る。学習指導要領からはずれているわけではない。しかし、スタートとしては生徒が選択できるように教育課程を編んでいったが、○○の事情で一方のみの科目開設となった。ということが保護者・地域に説明できるかどうかが問われる。
○ 「社会と情報」「情報の科学」をさらに発展させた学習をおこなうために、専門教科情報科のか科目を履修させることも可能である。
○ なぜ、各科目とも総授業時間に占める実習に配当する授業時数の割合を示さなかったのか。
←総時数の何分の1という表現はやめた。「実習しなくて良いのか?」という質問する人がいるが、そんなわけはない。すべて座学、すべて実習などと言うことがあるわけがない。実習教科ではない。ちゃんと教え込むことが必要である。たまたま2単位としているが、実態は3ないし4単位は欲しいところである。
「エクセル3ヶ月、ワード3ヶ月でマスターできるからあとの半年は古典でもやるか」のような議論がいまだに出てくる。それは未履修問題の再来だ。
センター試験の科目になるのかならないのか。センター試験に入れることが良いことかどうかわからないが、大学入試の科目が高等学校教育に大きな影響を及ぼしていることは確かだが。そして実習教科・2単位教科はセンター試験や入試にはなじまない。しかし教科「情報」は実習教科ではなく、また本音は3~4単位欲しい教科だ。
教科「情報」の免許は専門教科も教えられるマルチな免許である。必要に応じて専門教科「情報」の科目を設定しても良いわけだ。「社会と情報」「情報の科学」を学んだあと、深く学ばせたいならば、専門教科情報を設定しても良い。
○ 各科目は原則として同一年次で履修させること
←1単位分割で複数学年にまたがって行うことに、教育的配慮があるか。教育的効果があるかといえば難しいところだとい考えているが、いろいろ検討した結果(総合的な学習の時間との連携、他教科との連携などにより複数学年にまたがっての分割履修の必要・必然性があるという結果ならば理解できる。はじめから時数調整のために1単位ずつ分割ありきという議論でよいわけではない。)
(2)ポスターセッション:12本の発表があった。私からは、「表現と内容の理解」として、「Wasonの4枚カード問題」を教材化して授業実践した内容を発表した。
【ビール問題】
パーティ会場で次のような状況があるときに、「ビールを飲むなら20歳以上でなければならない」という規則が守られているかどうかを確かめるには、どの人を確認しなければならないか。
(1) 飲料不明 成人
(2) コーラ 年齢不詳
(3) ビール 年齢不詳
(4) 飲料不明 未成年
【4枚カード問題】
4枚で1組のカードを作る。片面にアルファベット、裏面に数字を書く。
「大文字を書いたカードの反対側の数字は偶数にする」というルールにした場合、どのカードをめくればルールどおりに作ってあるかを確かめることができるか。
(1) 8
(2) m
(3) A
(4) 3
【ビール問題】も【4枚カード問題】も、【命題、逆、裏、対偶】の問題として考えればまったく同じ論理構造をしている。これを授業に組み立てて、【ビール問題】を生徒に演示させ、個人ごとに答えさせると、9割以上が正解した。
しかし、ビール問題を解かせたあとに【4枚カード問題】を4人程度のグループで考えさせると、正解率はビール問題の半分くらいになった。
見に来てくれた人に協力してもらって授業を再現し、実践を紹介した。教室での実践と同様に、「ビール問題」ではまず間違いなくほとんどの人が正解する。
(ビールを飲んでいて年齢がわからない人の年齢を確かめる)
(未成年であることがわかっていて飲み物がわかからない人の飲料を確かめる)
しかし、「4枚カード問題」になると、始めのうちは(8のカードを確かめる)(Aのカードを確かめる)と答えようとする人が少なからずいる。
実際の授業では、このあと「ビール問題」と「4枚カード問題」をベン図で解説し、さらに同様の論理構造をした問題を提案させ、提出された問題について検討させるところまでおこなった。
今回は、ワークショップ風に参加者の協力を得て授業の再現をしながら行ったので楽しい発表になった。
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