2010-09-28

航海訓練所研究発表会

 夏期休暇を取得して航海訓練所の研究発表会に出席した。
 航海訓練所の練習船は、校種や海外からの実習受け入れなど実習課程の種類が以前よりもずっと多くなり、異なる課程の混乗も常態となって教官の業務は多忙を極めているはずだ。教官としての仕事は休みなく、同時に船を維持管理する業務も昼夜を分かたず、その上に研究を続けて発表するのは並大抵の努力ではないと思う。今日発表が行われた研究に関わった教官諸氏に敬意を表したい。
 発表は2会場で行われたので、12本のうち6本を聴いた。特に、ERM(Engine-Room Resource Management)に関する基礎研究と、操船シミュレータ訓練に関する研究は、実習と座学の組み合わせで授業を展開する高校教育にも参考になる内容だった。
 また、午後の特別講演では、ILOおよびSTCW条約の最近の動向について詳しい話を聴くことができた。

午前 研究発表
(1) 操船シミュレータ訓練に関する研究ー航路見学シナリオの有用性の検証ー
   特定の航路についての事前学習、操船シミュレータによる操船訓練、実船による航路通航と事後の学習を組み合わせて実施した。その組み合わせ方を幾通りか行って、効果的な方法を探る。単なる航路見学にとどまらず、実習したことを「学び」に昇華するための取り組みとして、科学的に検証して今後に生かそうとする研究。

(2) VDR(Voyage Data Recorder)データの実習訓練への活用
   航空機のフライトレコーダーに相当する航海情報のレコーダを、国際航海に従事する総トン数3000t以上の貨物船にも装備することが義務付けられた。この研究は、そのVDRのデータを、実習訓練にも活用しようとする試みである。船橋内の映像や会話データを実習後のブリーフィングで活用するなど先駆的な取り組みが行われている。

(3) 練習船教育におけるグループワークによるストレスマネジメント効果
   練習船内の生活では、狭い生活空間で多人数での団体生活を行うことによるストレスを感ずる実習生も多い。それに対処するため、グループカウンセリングのひとつの手法であるグループワークを行って、その効果を検討する研究。高校のクラス運営や、クラブ指導でも応用できそうな内容だ。

(4) ERM(Engine-Room Management)に関する基礎研究 ー 強制要件化と実習生の教育訓練に関する一考察 ー
   2010年にSTCW条約およびコードの包括的見直し改正が採択され、その中に、ERM(Engine-Room Management)に関する知識を求める改正が盛り込まれた。その調査の一環として、独立行政法人海技大学校で開講されているETM(Engine-room Team Mnagement)を受講した報告。予稿には記載がなかったが、リーダーシップとヘッドシップなどの用語が発表に含まれており、これは数年前に「教育経営論」という教科書(新井郁夫著、放送大学大学院教材)で勉強したことなので興味深かった。
 私の思うところでは、差し迫った危険回避の場面ではヘッドシップが発揮されなければならないだろう。しかし、職についたばかりの若手職員を育てる上では、全体の業務の中で新人が任されている部分がどのあたりにあるかを俯瞰的に示し、新人が一人前に育ってゆくための道筋について新人自身が内発的な動機を持つように仕向けることが上司に求められるリーダーシップだと思う。
(5) CS分析を用いた実習の改善点の抽出方法について
   練習船における実習を、CS分析(Customer Satisfaction:顧客満足度)手法によって評価することを試みた研究。

(6) 重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)を用いた実習訓練について
   実習の目標設定に対し、その途中段階での達成度を評価し、継続する実習の改善に役立てる取り組みの紹介。

午後 特別講演
 午後の特別講演は、海運関連会社、船員教育機関など船に関わりのある機関には聞き逃すことのできない内容だったため200名以上の参加者で会場は満員だった。
(1) ILO海事労働条約の概要と国内法化の状況について
   ILOの60本に及ぶ海事関係条約を1本にまとめた「ILO海事労働条約」が採択され、発効が間近となっている。その条約の概要、特徴に関する講演。

(2) STCW条約およびコードの2010年包括的見直し改正について
   2010年マニラ改正といわれている。その改正の概要に関する講演。

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