2011-09-27

第11回航海訓練所研究発表会

 独立行政法人航海訓練所の研究発表会に参加した。今回は第11回だが,運輸省航海訓練所時代の昭和39年に第1回が開催され,それから通算すると今回は第49回となるそうだ。過密な実習訓練と船隊の運航管理を行いながら,大学をはじめとする他の組織との共同研究や独自の研究を精力的に進めていることに敬意を表したい。
 10時から17時まで,練習船における教育訓練に関する研究,船舶運航技術に関する研究,海洋環境保全に関する研究など,計14本の研究発表が行われた。どの研究も,実船での教育実践と練習船隊の運航および管理に基づいているため,ダイナミックで興味ある内容だった。
 本校でも船舶職員養成を行っているため,実習船での教育と船の運航管理を行う上で参考になるものばかりだった。特に,BRM(Bridge Resource Management)とERM(Engine Room Resource Management)に関しては水産高校の実習船でもしっかりと研究を進めなければならないと思った。
発表題目と概要:

発表1. 船陸間マルチメディア通信の効率化に関する調査研究 ~RFIDとテザリングを利用したデータ共有システムの構築~
概要:RFIDを利用して船内の点検記録簿や業務日誌など、従来は紙ベースで行ってきた記録について、IC-TAGを用いて電子化する研究。

発表2. 船陸間マルチメディア通信の効率化に関する調査研究 ~リアルタイム運航データ簡易伝送システムの構築~
概要:練習船の運航データの簡易伝送システムを構築し、船陸間通信による運航管理システムを活用するうえで陸上において練習船の動静を把握できるようにする研究。

海陸一体となって正統的周辺参加が可能ということ。船員の減少、徒弟制度的な技術の伝承機会の減少が問題となっているので、このようなシステムを媒介として船と陸上が一体となり、初任者の学習機会となることが期待できる。

「学習の越境」、このシステムを媒介として越境するということ。どのデータが必要なのかといったやり取りの中で、たとえば「アブログ」に必要なデータは?ということで、通信士、機関士、航海士の間で情報交換を行う中で学習が成立すると考えられる。

発表3. 練習船における効果的なグループワーク演習の取り組みについて
概要:実習生へのカウンセリング手法について、ストレスマネジメントの観点から実習生のグループワークを実施し、ストレスの低減を目指した取り組みの研究。

発表4.ERM(Engineroom Resource Management)に関する基礎研究 ーERM要件と訓練所実習訓練内容の対応ー
概要:IMOマニラ改正によってSTCW条約が機関士の能力要件にERMに関する知識とその実践に求めていることと航海訓練所で行われている実習訓練がどのように対応しているか分析した。

発表5 フィリピン国における乗船訓練への技術協力 ーMAAP練習船OCA号の乗船訓練その3ー
概要:フィリピンの船員養成に対して乗船実習を効果的に行うための協力を行った報告。

発表6. ナレッジバンクを活用した業務効率化に関する研究
概要:機関来歴簿や作業簿などを表計算ソフトウェアで記録しているが,それをナレッジバンクとして、キーワード1画面から検索できるようにする研究。

発表7 船内供食における栄養管理に関する研究
概要:船内供食が乗組員・実習生にとって栄養状態と身体活動量、生活習慣病予防のためにふさわしいかどうかを定量的に研究した。
練習船乗員の中から協力者を募って,提供された食事と摂食量を定量する一方,身体活動量計で消費カロリーを計測記録した。

発表8 船体の防汚方法と水性生物の船体付着状況に関する研究
概要:従来、船体汚損は船速や燃料消費量の面から論じられてきたが、船体に付着した水生生物が越境移動することによる移動先の環境への影響が近年注目されている。水生生物の越境移動について,バラスト水はいろいろな規制がかかってきているが、船体付着については?
北極圏航路ができると越境移動が多くなると危惧する研究者もいる。

発表9 練習船におけるBRM訓練に関する研究
概要:マニラ改正、2012年1月1日より発効(5年の経過措置)をうけて、揚錨・投錨実習においてBRMがどれだけ実施されているかを検証した。
実習したら実習したままでなく、事後のデブリーフィングが重要。

発表10 練習船実習前後における航法の理解度について
概要:青雲丸における実習内容、実習結果および試験の正答率に見られる傾向を調べ、習得傾向に応じた実習方法を検討した。
燃料費の高騰→航海規模の縮小→実習機会の減少
3ヶ月の実習から航法の習得傾向を解明,限られた航海当直時間の中で効果的な訓練方法を検討する。

発表11 ECDIS実習訓練に関する研究 ーCBT(computer Based Traning)の活用ー
概要:航海用電子海図の最新維持について、実機による説明グループ、実機を用いた海図改補見学グループ、CBTによる実習グループで海図改補の実技テストにどのような影響があるかを調べた。

発表12 AISシミュレータを活用した実習訓練に関する研究(その2)
概要:AIS(Automatic Identification System:自動船舶識別装置)に対する仕向港の手動入力について、実習生をグループ分けし、取扱説明グループ、実機操作実習グループ、シミュレータ実習グループの比較をし,効果を調べた。

発表13 リーダーシップ訓練の構築 -Development of Leadership Ability by Sail Training-
概要:STCW条約マニラ改正、船内における明瞭な意思伝達、効果的なリーダーシップの発揮など,ヒューマンエラー事故防止対策としてコミュニケーション能力が資格要件に追加された。操帆実習において、実習生がリーダーシップをどのように発揮できたかを評価した。

発表14 大型帆船の帆走性能に関する研究 -踟ちゅう法(第4法)の特性-
概要 踟ちゅう法第4法については風力4程度の時に自然にタッキングされてしまうと推定されていてあまり行われていない。しかし、状況によっては、第4法が手早くできる場合もあるので、実験によってその特性を確認し,他の1~3法と比較した。

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