2011-12-22

海洋教育セミナー(第6回)

日本船舶海洋工学会主催の第6回海洋教育セミナーに参加した。

小中高校生の理科離れ、とりわけ海・船に関する興味・関心が希薄になっている現状に対して、研究施設や海洋関連産業現場の公開、小中高生を集めるイベント、学校への出前講義など、海洋教育の意義と重要性を啓発するためのさまざまな活動が行われている。

 今日のセミナーは、「官」「産」「学」それぞれの立場で行われているこれらの諸活動を総括し、共有する目的で開催された。

 会場には他県の水産高校から知り合いの先生が1名、大学時代や船に乗っていたときの先輩後輩も幾人か出席していて旧交を温めることができた。

会場 :東京海洋大学品川キャンパス 白鷹館
時間 :10時受付開始、11時~17時45分
懇親会:於学生会館、 18時~19時30分

主題:「若者層に刺激を!船舶海洋工学教育の見える化は進むか」

 セミナーの昼休みに大学構内で保存されている雲鷹丸と鯨の骨格標本を見学した。
 雲鷹丸は1909年に建造された3本マストバーク型帆船で、1929年まで農商務省水産講習所(東京海洋大学海洋科学部の前身)の練習船として活躍した船だ。平成10年に有形文化財として登録されている。同大学海洋工学部には重要文化財として明治丸(1874年建造)が保存されている。両船とも貴重な文化遺産だ。
 セミナー会場となった白鷹館のとなりに鯨の骨格標本が保存されている。大きな骨格が2体、補強のための支柱に支えられて保存されており、捕鯨が隆盛を極めたころを物語る。

雲鷹丸


鯨の骨格標本


鯨の骨格標本


学生食堂でハッシュドビーフオムライスと豚汁の昼食


【開会挨拶】
船舶海洋工学会 担当理事 新井誠先生
 子供たちに海や船の教育が充分に行われておらず、保護者たちも海ではなく陸地を向いている状況に対する危機感から、2008年、当学会に海洋教育推進委員会を立ち上げた。その前に数年の準備期間もあった。
 日本は小規模・地道ではあっても海洋教育は行われているが、それぞれが孤立しており、情報交換も進んでいない。
 そこで、海洋教育委員会が核となってそれらをまとめる役割を担い、情報交換を行うために海洋教育セミナーと海洋教育フォーラムを開催している。
今日は産官学それぞれの立場から情報交換を行い、今後の活動を改善、連携を進めたい。

【第1部】官による若年層・地域社会への啓蒙的活動

1. 独立行政法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)広報課 米本智仁氏
 JAMSTECが行っている広報活動、普及活動、教育活動など各種活動の紹介。
 それぞれの活動の特性について、内容の深浅・情報伝達の遅速、コミュニケーションの疎密・人数の多少の観点から振り返った結果が報告された。
一般公開は6割が初めて、4割がリピーターだそうである。(私もこの10月1日に初めて一般公開に参加した。)

2. 海上技術安全研究所企画部 西田浩之氏
 以前は運輸省の組織だったが、独立行政法人となった。第二期中期計画で、「わかりやすい情報提供に努めるとともに、双方向のコミュニケーションにより行うアウトリーチ活動の充実を図るため、小中学生の職場体験・課外授業などを行う」という目標を立てている。以前は、こうした活動はボランタリーだったが、独立行政法人になってからは「業務」となった。

 平成19年議員立法で成立した海洋基本法では海洋教育を重視しており、28条に明記されている。6つの基本理念と12の基本政策。その12番目に海洋教育について(海洋に関する国民の理解の増進など)と決まっている。
 この法律を実施するために「海洋基本計画」(平成20年3月18日閣議決定)が策定され、施設公開、練習船などへの体験乗船、各種海洋産業の施設見学会や職場体験などの取り組みなどが基本施策として位置づけられている。

 施設の一般公開は船舶技術研究所時代から毎年2回行っていたが、独立行政法人になってからは以前にも増して内容を充実させるようになった。
 小中学生の職場体験や課外授業への協力、インターンシップ制度(高等専門学校,大学)による学生受け入れなどを積極的に行っている。
 これらアウトリーチ活動に関わる専門職種はなく、研究者個人の適性や興味に応じて対応しているが、真剣に考えなければならない。

【第2部】産業界からの若年層・地域社会への啓蒙的活動

1. 常石造船株式会社 倉本明氏
2. 新来島どっく 山下芳郎氏
3. 三井造船昭島研究所業務統括部 上入佐光氏

 各社の工場見学(小学生、中学生、高校生受け入)や、職場体験、インターンシップの受け入れ状況、高校への出前授業、大学での特別授業・寄附講座、地域のイベント開催・協力などの取り組みについて報告が行われた。

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 学習指導要領では現場実習や職場体験を充実することとされている。技術の進展は急速なので、すべて学校の中だけで教育ができるわけではない。学校と実社会との乖離をうめるために現場実習、現場体験などが有効である。そういったことを教育活動の中に位置づけることが必要ということから学習指導要領に現場実習や職場体験が盛り込まれた。

 地域や産業界との連携・交流を通じた実践的な学習活動や就業体験を通して、将来のスペシャリスト、地域産業の担い手、人間性豊かな職業人の育成のために、地域との連携を積極的に行い、社会人講師の積極的な活用をすることとされている。

 企業に生徒をお願いするということはさまざまなハードルがあるが、産業現場に生徒を送り、学校に戻ってきてから現場での活動を振り返ることによって、体験を学習に昇華させることができる。

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【第3部】大学初の若年層・地域社会への啓蒙的活動
1. 東京大学、ヨットのテクノロジーと夢の島における一般講演会 早稲田卓爾先生
 夢の島公園を会場とし、高校生・大学生・一般を対象としたヨットのセーリング体験活動と専門家による講演を5年間行ってきた。
 東京湾におけるセーリング体験を通して海に興味を持ってもらう。
 講演を通してセーリング競技や船舶海洋産業を支える先端技術に興味を持ってもらう。
 これまで次のような方々の講演が行われた。
  • 鹿取正信氏、金井亮浩氏:アメリカズカップ
  • 西村一広氏:ホクレア号日本航海やスターナビゲーション
  • 雨宮伊作氏:帆船の科学と気候学を利用した航海術
  • 佐野氏:木造ヨット建造
  • 国枝佳明氏:海王丸の航海術
  • 大内一之氏:ウィンドチャレンジャー
2. 東京海洋大学海洋工学部の取り組み 増田光弘先生
 海洋工学部サイエンス教室
 明治丸、資料館、小型練習船やよい、1号館(文化財)などの史跡見学会
 手旗信号とロープワーク体験、ポンポン船工作体験など。
 隅田川鮭の稚魚放流会
 放流が5000匹。帰って来る確率は10万分の1。
 子供たちは卵から孵化させる。
 帰ってくる確率はとても低いが活動を続けている。
 お江戸深川桜祭り(3-4月)川辺からの東京見学。
 臨海小学校サイエンス教室
 リモートセンシングに案する授業(小学生に対して)
 船の科学館水の実験コーナーに協力
 小学校低学年や幼稚園生に大学生が説明する。
 船の安定性、浮沈子などの実験を含めて。
 吾妻橋フェスト、カッター試乗会

 ☆海洋工学部の課題:  日本船社所属の商船は世界の15パーセント。
 しかし、1975年では5万人以上いた日本人外航船員は現在2000人以下。
 世界中ではフィリピンを筆頭に15万人。
 海洋教育を通して海や船舶に夢を持ってもらうことが重要

3. 横浜国立大学における高校生向けコンテストの実施横浜国立大学 川村恭己先生
 受験生の確保、特に船舶海洋工学分野に興味のある若者を増やしたい
 ものづくり教育の重要性(学生フォーミュラ,鳥人間コンテスト)
 海洋分野のおもしろさを伝える。
 従来から小中学生向けの「おもしろ船教室」を実施してきた。
 子供たちが必ずしも横浜国大に興味を持ってくれるわけではない。
 そこで2007年度から高校生向けの講義とコンテストを始めた。
 本年は65名の高校生が集まった。初回は20名くらいだった。
 はじめのころは高校生の募集に苦労した。
 参加した高校生は非常に楽しんだ。
 学生の大会運営が重要。
 船舶海洋分野への興味を導けた。
 5回目となり多くの高校生が参加するようになった。

4.東海大学における小学生中学生高校生への啓蒙活動 修理英幸先生
 船舶、水中ロボット、海洋開発、海洋資源の技術を小中高校生に知ってもらう
 地域の小中学生を対象に遊び感覚でものつくりを体験してもらう。
 講演会やコンテスト、オープンキャンパス、地域のベントへの参加など。
 「静岡かがく特捜隊」プールで水中ロボットを動かそう
 ソーラーボート・人力船大会、三保海岸
 水中ロボットフェルティバル

5.大阪大学からの出前講義と施設航海 箕浦宗彦先生
 出前講義は平成20年から
 施設公開小学生と保護者各100名:海の日制定の平成8年から
 大阪大学に親しみを持ってもらう。
 はじめは教育・啓蒙ということは発想していなかったがやってみるとそのような側面が大きい。
 高校生を大学に呼び込むことはなかなか難しいので大学から高校に出向くことにした。
 1996年から2008年は総覧的に前施設を見せるようにしていたが、リピーターから「去年と同じ」といわれたことなどから2009年からは研究室ごとの輪番で行うようにした。
 100メートル水槽は大阪大学工学部最大の施設。
 パラメトリック横揺れを観察
 風洞実験施設で風のエネルギーを体験
 魚の動きを科学する・・・魚の動きと水中ロボット(タミヤメカフグ利用)
 しかし、この活動に参加した子供たちはいまだ工学部の本学科には入学していない。

6. 大阪府立大学での啓蒙活動 池田良穂先生
 ①1992年から青少年サマーセミナー実施。小学生高学年対象。工作実験1日コース。
 船舶海洋工学科の存続に危機感を持った。
 小学生をターゲットとしたセミナーを実施し、大学院生に指導させる。
 堺市教育委員会で夏休みの工作のコンクールを行うが、そこに本セミナーに参加した生徒の作品が並ぶ。
 地域の社会貢献には役立っているが、目的どおり海洋への興味関心を導出できているのか?
 小学校のときのことは忘れる。中学・高校になると実験できる教員は少ない。それでサマーセミナー出身の本学学生はまだいない。
 ⇒見直しの時期に来ている。それで高校出前授業を行うことになった。

 ②高校出前授業
 大学のほうで出張して出向く。高校進路指導の先生は海洋造船のことを知らない。5年間やってその中からひとり入学してきた。

7. 模型製作による体験活動 広島大学 土井康明先生  2008以前も小学生対象の教室を実施していた。
 一般講演(中学・高校・一般対象)をはじめた。
 呉のヤマトミュージアムで実施。参加者140名のうち高校生は10名以下だった。
 出前授業を始めた。補講、補習などで高校のスケジュールは忙しい。
 高校からは大学の先生の講義を聴きたいという要望が多い。
 A4のコピー用紙1枚で正方形断面の四角柱を作り、ペットボトルによる過重試験を行う。
 この実習を含む授業を高校に出向いて実施している。
 船の外板の厚さは船の長さの1万分の1くらい。
 この模型作製によって、そのことが実感できる。

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