2012-05-12

納得研究会(2012年第2回)

立教大学にて本年2回目の納得研究会が開催された。18名出席
本日の発表は2本で、ともに病院の入院患者が自分の病気に対する認識を深め、QOLを高めるための手立てについて、薬剤師と看護師それぞれの立場から行われた研究報告だった。

発表1 Wさん(薬剤師):精神科入院患者のグループミーティングについて

発表2 Kさん(看護師):急性心筋梗塞を発症した病者が心臓リハビリテーションを通して新たな自己を探求するプロセスの明確化

横浜国立大学・神奈川県立総合教育センター連携講座「学習環境研修講座」に毎年8月参加していて、その講座を担当されている教育人間科学部教授の有元典文先生の次のようなお話が教員としての私の心に刻まれている。

 ~~「学校は学校内の達成のために学習する場ではなく、学校外の生活の質を高めるために学習を行う場である。(学校は、こどもを学校の生徒にするための場ではなく,こどもが社会の中で生活してゆけるようにするための場だ)。」~~

今日の発表は、この「学校」「学習」「生徒」に対する考え方に通ずる概念だと思った。つまり、患者が自分の病状を認識し、服薬やリハビリテーションなどの自己管理行動を患者が自覚的に行うことが医療の目的で、「薬を飲むことになっているから飲む」「リハビリを行うことになっているからする」というように医療者に対すして患者が服従することが医療の目的ではない。

服薬指導やリハビリテーションは患者にとっては学習で、ジーン・レイヴ&エティエンヌ・ウェンガー著、佐伯胖訳『状況に埋め込まれた学習』第3章の「断酒中のアルコール依存症患者の徒弟制』に見られるような学習過程とよく似ている。

発表1の概要:「精神科入院患者のグループミーティングについて」

精神科入院患者が自分の状況を自覚し、服薬を自分自身の目標達成(退院する、就職する、結婚するなど)の手段と捉えることができるようになるために、「IMR疾病管理とリカバリーツールキット」を用いて患者同士のグループミーティングを実施した。
服薬そのものが目的ではなく、服薬を通じて患者が自分の病識をもつこと、自分のリカバリー(目標を立てそこに近づいてゆく)実現をすることが目的。
リカバリーとは、患者が自分で決定した目指したい姿への成長。
薬剤師は調剤だけでななく、臨床で患者に服薬指導を行うことも業務のひとつである。
40代から70代、入院経歴2年から10年余りの患者を男女別に5人ずつ、3ヶ月の間にそれぞれ計7回行った。
ミーティングの1回目に、基礎調査として発症前までの生活歴や趣味、宗教、信条などを質問形式に沿って聞いたが、これが有効だった。
2回目以降、各自の目標を設定する。
精神疾患について知識を得る。
ストレス脆弱性について知る。
服薬の必要性や副作用について知る。
規則正しく服薬する方法を考える。
重ねてきたミーティングを振り返る。

結果

話し合いができるようになった。
押し込めていた考えや感情を発信するようになった。
自己評価を高めた。
患者同士がお互いの能力を引き出した
服薬を自分のための治療と考える契機になった。
薬剤師が進行をつとめることで、疾患やストレスを薬に結び付けて解説でき、服薬意義を明確にできた。

課題
DAI-10(Drug Attitude Inventory-10)のポイントを下げた患者が複数いた。
これは、医療者に取り繕わず本当の気持ち(自分は病気ではないので薬は不要)を語るようになった結果と推測している。
グループミーティングの取り組みが終わったあと、数ヶ月で服薬自己管理ができなくなった患者がいた。

質疑
○ DAI-10そのものが間違っているのではないか?
→自分への認識が深まるほどポイントが下がることああると思う。
○ 2択では考えられないことがある。
臨床心理士は文系で生物や化学の知識が不足している面があり、薬のことはよくはわからない。だからチーム医療が必要だと思った。

○結果に対して数値化して結論付けることができず実践報告までにとどまった。
→GTAで数値化できるかもしれない
→自分が良かったと思った点を評価する指標を探すとよい。
○認知機能がない人が対象とならざるを得なかった。
→(医療者にとって)優等生のように振舞う人が出てしまう。言語ゲームのように点数が上がうだけの人がある。
○目的が高度すぎるかもしれない。服薬を自己管理できるようになる目的なのか、自己実現を目指すのか。服薬自己管理だけの目的ならスキナーボックスで可能かもしれないように。
○7回だけでなく継続的に重ねることが可能だったのではないか。
○中学生に対して、「勉強するのは点数取るためではないのだから・・・」と言っても相手はすぐには納得できない。むずかしい。これは内発的動機づけの話だ。
○グループミーティングにする意義はあったのか?その必要性は?
→グループミーティングがはじめに行われていて、そこに薬剤師が呼ばれたことがこの研究のきっかけだった。
○グループミーティングに対して何らかの相互作用を期待したのか?「効果があるはず」という思いがあったのか?
→個別での服薬指導よりも、人の話を聞いて「なるほど」ということがあるようだった.個別指導よりも効果がありそうだった。
○病気に対する自覚を持つことと、服薬自己管理の二つの目的が混在している。
○「カッコーの巣の上で」を思い浮かべた。
○グループミーティングがよかったと思うのは、患者ー医療者の権力関係がないところ。必ずしも薬をきちんと飲むことにつながらなくてもよいのではないか。
○人と違った意見を言うときに、教師よりも自分と同じ境遇である者同士のほうが良いと思う。
○会話記録がないと分析ができない。
→精神科という特性からそれは難しかった。
○服薬意義とDAI-10はちょっとずれているところがある。
→グループミーティング・・・人生の目標と服薬意義にはずるつ傾向がある。
ツールキットが向いている人とそうでない人がある。それを初期に抽出することができたのではないか。

発表2の概要:「急性心筋梗塞を発症した病者が心臓リハビリテーションを通して新たな自己尾を探求するプロセスの明確化」

 急性心筋梗塞(AMI)を発症し、カテーテル(PCI)によって日常生活に戻れるようになった患者4名に対し、2回から4回の面接を行い、患者が心臓リハビリテーションを通して病者としての自己を探求し、自己管理が必要な退院後の生活と結び付けようとする過程を分析した。

予備知識:AMI(心筋梗塞)・・・心臓の心室と心房を結ぶ三つの血管が完全に詰まって壊死した状態。
狭心症はその血管が狭くなる症状で、壊死することはない。

PCI:PCI カテーテルを入れて血管の詰まったところを膨らませ、血液が流れるようにする。術式が10年前に比べてとても簡単になっている。今は鼠蹊部からではなく、手首の血管からカテーテルを入れられる。
心リハ:心臓リハビリテーションのこと。
かなり復帰できるようになってきている。AMIの90パーセントはPCIで治療できる。あとの10パーセントは開胸手術が必要。
心肺停止の状態でも蘇生が行われればカテーテルを入れて治療する。
サッカー選手、AEDで救命措置をした後この方法をしてその後で亡くなったらしい。

PCIを行った患者が、痛かったり苦しかったり死を想像する経験をしながら、そのあとAMIを発症した自覚が薄れていく。
再発予防が必要である。
入院期間が短縮。日本7日、アメリカ3日。アメリカは外来フォローがしっかりしている。
日本は予後のリハビリをしてから退院。診療報酬が決まっているので、できるだけ早く退院させる。
心臓リハビリテーションに関する知識,自己管理に必要な自覚がないまま退院させられる。退院後の自己管理行動に対する意識付けがひくい。

研究目的:AMIを発症し緊急PCIを受けた病者の心臓リハビリテーションにおける体験を明らかにし、入院期間における看護支援の検討をすること。
病を持つ自己の受け入れ→心リハを行う上で大切。
研究者の臨床経験
自己の病をどのように捉えているのか。

発症から集中治療室、この超急性期の体験の研究。

再発:高脂血症があったり、肥満であったり、糖尿病を持っている人はリスクが高い。自己管理が困難で、再発を繰り返す例が多い。
これらの人のAMI発症率は、このような既往症のない人の3倍以上。
糖尿病を持った心疾患患者は注目を集めつつある。

10~20代でも血管が振動して詰まるための心筋梗塞があり、死に至ることがある。亜急性心筋梗塞というのがある。
心リハを開始する上では医師の指示がある。

データ収集方法
参加観察法
心リハの観察、面接時に質問、思いや語りを引き出す。
半構成的面接法
心リハ中のベッドサイドでの非公式面接
病党内歩行試験終了後の公式の面接
その他補足データ

AMI発症から退院までの、新たな自己を探求する過程の全容(サンプル4名)
入院から退院までの患者の時期
① AMIのダメージを最小限にする時期:発症の実感が伴わない。1-2日。
 (積極的にまな板の鯉、死を意識する時期)
② 病者としての自己を探り冒険する時期(心リハ開始の時期)
③ 病者としての自己と未来の生活を結ぼうと試みる時期(退院の見通しが立った時期) 禁煙決意、運動療法を試みるなど。

単に退院するだけでなく、社会復帰を目指す。
全期間を通じて案内役(同伴者としての医療者の存在) 黒田・船山(2002)、PCIを受けた患者は冠動脈バイパス術を受けた患者よりも在宅移行期に生活を管理して行こうとする意識が低かった。

状況の中から患者が学習をしているのではないかということから、レイブの「状況に埋め込まれた学習」から新たな視点を得られた。
状況:本人の身体の状況、医療者や他の患者とのかかわりなどから。
自覚のない病者に病者として自覚させていく。
結果:本研究参加者は、退院後に何らかの自己管理行動が必要であることを感じていた。

質疑応答
○もちを喉に詰まらせたときは死を意識するが取れればもう忘れる。
○病者としての自分を認めたくないというのではなく、喉もと過ぎれば熱さを忘れるという状況。
○追跡インタビューを行ったか? →追っかけインタビューは1回だけやった。
退院したあとは誰からもアドバイスを受けられないところで、病識を忘れてしまいかねない。
○研究の目的、心リハの体験を明らかにする?こういう教育を行っていくことがよいというとわかりやすいが・・・
→論文査読のときも同じことが言われた。
○生死が心配な時期から安心できる時期への移行、現象としてあるのではないかと思っている。
○医療者から病気のことについていろいろといわれた患者とそうでない患者のちがいは?
○医療的なかかわりを持った患者としてのアイデンティティと生活者としてのアイデンティティ、患者はダブルバインドの状態にある。それを対象者の語りの中から、どちらを読み取るか、聞き取るか。
○患者は自己の生活が破綻しているというふうには思っていない。
行動を変容させていく、アイデンティティを一致させていく。一致させないと退院後の生活が成り立っていかないのでそこは医療者としては一致させるべきと思う。

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