14時から日大文理学部で開催。本日の報告は次の2本。
報告1 「ミュージアムの「来館者研究」(Visitor Studies)について」平野智紀さん
報告2 「博物館で起こる学びとは何か?」重盛恭一さん(まち研究所)
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報告1 「ミュージアムの「来館者研究」
~ 見ることについて、視聴覚教育理論とメディアリテラシー ~
20世紀のはじめ、ディーイのプラグマティズムに思想的基盤を持つアメリカ市民教育運動では、直感・事物・経験を重視した。
○ 視聴覚教育
視聴覚教育とは、「理性的認識を与えるために、言語を伴う、豊かな、感性的体験を耐えるもの」(波多野1954)(このころはテレビはまだそれほど普及していない)。
エドガーデール 視聴覚教育:視聴覚教具・教材が具体的経験から抽象的概念を獲得するためのメディアであるとし、「経験の円錐」として表現した。
言語的象徴 ↑概念
視聴覚的省庁
レコード・ラジオ・写真
映画
展示
見学
演示
演劇的参加
ひながた体験
直接的・目的的体験 ↓体験
○ メディアリテラシー
1980年以降、イギリス、カナダで始まり日本では1990年代半ば以降急速に広まる。
水越の定義(1955) 人間がメディアに媒介された情報を、送り手によって構成されたものとして批判的に受容し、解釈すると同時に、自らの思想や意見、感じていることなどをメディアによって構成的に表現し、コミュニケーションの回路を生み出していく、複合的な能力。
○ 視聴覚教育理論とメディアリテラシー
○ なぜミュージアムか
送り手と受け手が存在するメディアである。
パブリックでインフォーマルな場(実空間)が存在する。学校とは異なり、きても来なくても良い。自由に見ることができる。
○ 来館者研究の社会的要請
来館者=ミュージアムを見る人の研究
Hein(1998)によると、大きく二つの要請に基づいている。
ミュージアムに対する教育的役割。
○ 第三世代の博物館
『市民の中の博物館』伊藤、1993
第1世代 保存志向、倉庫中心、威圧感、収集保存→陳列
第2世代 公開志向、展示中心、概観を重視、収集保存→調査研究→展示
第3世代 参加思考、事業中心、機能を重視
収集保存→調査研究→展示→教育普及と変遷してきた。
○ ミュージアムマネジメント
大堀(1997)『博物館学教程』
それぞれの博物館が目的の使命を達成するために、長期的展望に立ったわかりやすいビジョンと戦略的志向を持って、博物館の組織、人材配置、財政、情報、施設設備の管理・責任体制を整備し、これらを合理的に運営すること。
○ 来館者研究の始まり
Gilman(1916)「博物館疲労」
教養があり視力の良い知識人男性に博物館の展示を見てもらい、その様子を写真に収めるというやり方で、博物館における疲労の実態を調査した。見ることは身体的負荷が高い。
○ 行動主義心理学に基づく来館者研究
Melton(1935)
来館者は左回りに展示を観覧する傾向にある。
来館者がどのように行動するかという視点から、トラッキングや時間計測は今でも多くおこなわれる手法である。
○ 認知主義心理学にもとづく来館者研究
Shettle(1973)
展示に教育学的な客観的観察・評価実験を導入することを提唱
Screven(1976)認知心理の人
○ 社会構成主義に基づく来館者研究
Falk&Dierking(1992)
来館者は複数のコンテキストの中でミュージアムを体験しているとし,Interactive Experience Model(ふれあい体験モデル)を提唱。
Hein
来館者が主体的に知識を構成するミュージアムを提唱。
○ マスコミ研究的な来館者研究
Cameron(1968) ミュージアムに、シャノンウィバー的なコミュニケーションモデルを適用。
○ カルチュラルスタディーズ的な来館者研究
Hooper Greenhill(1994)
○ 批判的メディア論としての来館者研究
水越・村田(2003)
ミュージアムの資料を基にメディアリテラシーを学ぶワークショップの実践研究。
○ 学習論の流れとメディア論の流れがある。
20世紀半ばには、マスメディアの発達から、見ることを通した教育=視聴覚教育の理論が登場。
○ 展示の「みかた」を獲得している来館者の展示観覧方略を明らかにすること
予備調査 美術館・博物館友の会
本調査 発話記録とビデオカメラ撮影
思考発話をカテゴライズ
高度な来館者は展示理解を超えた、自らの見方を確立している。
特に越境方には、批判・創造の意図に拠った発話が多く、ミュージアムを批判的に見ているといえる。
見ることは単に受動的な行為ではなく、創造的な営みにもなりうる。
対話式鑑賞
美術館などで行われる作家や美術史から作品を解説するのではなく、作品を見て対話することを中心にした鑑賞スタイル。
認知心理学者のアビゲイル・ハウゼンによって基礎が作られキュレーターのアメリア・アレナスによって普及した。
報告2 「博物館で起こる学びとは何か?」
博物館で起こる学びとは何か。博物館の継続的利用としての星の語り部活動を中心に事例紹介と若干の考察。
○ 事例としての『星の語り部』山梨県立科学館プラネタリウムに集う市民グループの紹介。
山梨県立科学館が市民に呼びかけ、公式に組織されている。
山梨県立科学館の公式的市民組織 展示ボランティア、天文ボランティア、星の語り部,(戦場に輝くベガ上映実行委員会)。
○ 「星の語り部」の生みの親の二人の紹介
○ 語り部の誕生、ある日天啓のように思いついた。プラネタリウム・ワークショップ
「観る」だけのプラネタリウムから「使われる」プラネタリウムへ。このことを「生みの親」の一人が思いつく。2003年10月に思いついた。そして,2004年1月に第1回プラネタリウムワークショップを開催。
○ 現在星の語り部のメインメンバーおよそ30人で,多様な活動をしている。たとえば・・・
星に託して手紙を書く(ワークショップ)(ラブレターを星に託したり亡父への思いを星に託したり)
夕涼み投影作品つくり(構成を考えたり、作ったり)
山梨県にある川崎市の施設で合宿。
メーリングリスト
○ 星の語り部を中心とする特別な活動
JAXAとのかかわり:星つむぎの歌(参加者が一行ずつ作った詩をつなげた作品)。平原綾香が歌い、土井宇宙飛行士とコラボ。土井飛行士は中学のころ山梨にいた縁で。
ライトダウン甲府バレー:年に一回1時間だけ,明かりを暗くして甲府から星を見よう、という運動。
世界天文年のプロジェクト:2009年ガリレオが望遠鏡で木星だか土星だかを見てから400年。
○ 星の語り部とは?
星の語り部は「家族」
星の語り部は「近所のオジさん」のいるところ
星の語り部と「受容」誰が来ても受け入れる
自分たちをボランティアとは思っていない。
ハンズオンユニバース活動
○ 視覚障害者の参加:語り部には2005-2006年頃から、視覚障害者が自らの意思で参加している。
○ 科学コミュニケーションと星の語り部
科学リテラシー共有における課題
「知識ある機関などが知識ない人々に伝えるというモデルからの脱却。
提供者側と利用者側の視点、双方向性のサイエンスコミュニケーションの必要性。
人々は過去の記憶や知識と現在の経験が一緒になって判断し、人生の岐路を決めている。
個人の文脈と社会との動的な接点にリテラシーを見出す。
知識(knowledge)から物語(narative)へ
科学リテラシー共有は人々にとって「終わりのない旅」の始まりで、ともに創造していく過程が重要。
○ 考察もしくは問いかけ。
星の語り部で起こっていることを、どのように考えていけばいいか。
自分への問いでもあり、みなさんへの問いかけでもある。
まず、「コミュニティとしての語り部」での「学び」は何か?
それと関連して、「かりそめの家族・親子関係として」の「星の語り部」の機能することは何か?
視覚障害者とのまったく分け隔てのない関係。
プラネタリウム、そして、科学館の学びにおける位置づけ:一回性の強い学びでは生まれない、深い学びがあるのではないか?
ある児童のことば:学校では、決まったものを必ず覚えなくてはならないけれど、科学館では、いくつかあるものから選んで覚えられるし、実験とか、他に展示とか、やってみることができるから,また次もやりたいってなって思う。
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